デビル・パンチ
怒羅獲悶作
午前7時。ちらかり気味の部屋に、着信音が響く。寝ていた男が目を覚まし、電話に出る。
「もしも〜し」
「何だ?起きたばっかか?」
寝起きの男がすっとぼけた声で返事をする。
「…えっと、誰?てか、こんな朝っぱらから電話掛けんなよ。もう切るべ?」
「何だ?寝ボケてるのか?俺だよ。俺」
寝起きの男が少し考える。ハッとして、途端に態度をを変える。
「すいません。あの…違うんです。さっきのは親に言ってたんですよ。その…」
「まあ、いい。それより、今日の午前10時にカンカンに行け。」
『人使い荒っ』
寝起きの男はそう思いながら言う。
「え?何でですか?」
電話の主がため息をつきながら言う
「今日、金城が出てくるって言ったろ?」
「あっ。すいません。忘れてました」
「10時だからな。忘れるなよ」
寝起きの男が不適な笑みを浮かべながら言う。
「分かってますよ。金城が揃えば、準備は完了ですか…」
電話はもう切られていた。
『人使い荒っ』
午前8時。灯楼高校の入学式の日。
校門に手袋をつけ、短ランを着た少年が立っている。名前は鬼頭浩二(きとう こうじ)。鬼頭が灯楼高校に入学したのには理由がある。鷹沢剛(たかざわ つよし)と言う男に会うっためだ。横を通り過ぎていく二人の新入生が何やら話している。
「なぁ、この高校ってあの鷹沢がいるんだろ?」
「ああ。こんな事になるならもっと勉強して上の高校行けばよかった…」
「今更遅えよ。でも空手とか格闘技始めりゃ今からでもなんとかなるんじゃね?」
「いやダメだ。アイツ40人以上の族にかこまれて、全員病院送りにしたとか、あの殺魔会の頭をコンクリの壁に投げつけて、壁にめり込ませたりしたとか…。とにかく逆らったら壁にめり込むぞ」
鬼頭はその会話を聞きクスッと笑い、その場を去った。それを少し遠くから含みのある笑みをうかべながら眺めている、65歳過ぎ位の老人がいた。老人は笑みをうかべながら、箒を持ってその場から離れた。
入学式が始まったが、鬼頭はいなかった。鬼頭は鷹沢を探していた。体育館の裏に言ってみると不良がたまっている。その中にとびぬけて大きい男がいる。その男は鬼頭に気づき、近づいてきた。
「よお!久しぶりだな浩二!お前なら同じ高校来てくれるって信じてたべ!」
「剛君は相変わらず声と図体がでけえな。」
「ははは!おまえも相変わらず憎まれ口ばっか叩くな!」
鷹沢の舎弟達がポカンと二人の会話を見ていた。
「あの鷹沢さん…コイツ知り合いですか?」
「おお!確か小3の頃俺が転校した以来だよな?」
「小4ね。ところでさあ、俺剛君のチーム入れてもらいたくて俺このガッコに来たんだけど!」
「おお!良いべ!お前なら大歓迎だ!おいテメェら!ちゃんと仲良くしてやれよ!」
普段、舎弟以外の人間と話さない鷹沢が軽快にトークをはずませているのをポカンと見ながら、舎弟の一人が煙草を弾いた。煙草は地面に落ちる前にキャッチされた。キャッチしたのは箒を持った65過ぎ位の老人だった。老人は器用に落下中の煙草のフィルターの部分をつかんでいた。
「おい小僧共、あんまり煙草捨てんなよ。掃除する奴の身になってみろ」
全員に視線が老人に向いた。さっきの舎弟が煙草に火をつけながら言った。
「あ?文句あんのかジ…」
―シュッ―
老人が鷹沢の舎弟のタバコを奪い、ゴミ袋に入れた。鷹沢以外のそこにいる全員は老人が煙草を取る瞬間が見えなかった。
「ジジイにあんま手間かけさせんなよ」
老人はそう言い鬼頭の方を向いて言った。
「俺はこのガッコで用務員やってる木田厳(きだ げん)だ。よろしくな」
そう言い老人は含みのある笑みを浮かべながら校舎の方へ向かっていった。全員あっけにとられている。
「剛君。あの木田とかいうジジイ何?」
鬼頭がそう言って鷹沢の方を向いたが、鷹沢はそこにいなかった。
午前10時。少年院から一人の男が出てきた。それを出迎えるように少年院の入り口の前に立っている男がいた。少年院から出てきた男が言った。
「俺を出迎えてくれる奴はいねえはずだべ」
待ち構えていた男がヘラヘラしながら答える。
「出てきて早速で悪いけど、お仕事ですよ金・城・君♪」
金城(かねしろ)と呼ばれた男がヘラヘラした男を少し睨みつけ、ヘラヘラした男の横を通りすぎて行った。ヘラヘラした男は金城について行く。二人が少年院の角を曲がって少し歩いた所で金城が口を開けた。
「ヘラヘラしやがって…。何のつもりだよテメェ。どこのもんだ?」
「この町のハーティガンだよ」
金城が険しい顔つきで、「ハーティガン」と名乗るおどけた男を睨みつける。
「ふざけやがって…。良い仕事紹介してくれるんなら良いが、そんな仕事を頼む様には見えねえしな。残念だが、俺はもう足を洗ったから他をあたれ」
金城はそう言い残し、その場を離れようとした。すると「ハーティガン」と名乗る男が金城を睨みつけながら言た。
「鷹沢に負けちゃったから?」
金城が足を止めた。
「今、何つった?」
「ハーティガン」と名乗る男は含みのある笑みを浮かべながら言った。
「だから〜、鷹沢に負けちゃったから、足洗ったの?って聞いてんだべ」
金城が「ハーティガン」と名乗る男の胸倉をつかみ、額を軽くぶつける。
「さっきから聞いてりゃ調子に乗りやがって!」
「怖い、怖い。そんだけ怖いのに足なんか洗っちゃったら勿体ねえよ」
金城が更に強く胸倉をつかむ。
「足洗うのは、鷹沢に負けたからじゃねえべ。カンカン入ってたら、族がつまんなくなっちまっただけだべ!テメェみてえな奴らがな!」
「つまんなくて悪いが、お仕事だ。鷹沢殺して来いよ」
ふと、金城の腕が緩んだ。
「………………」
金城は何か喋ろうとしたらしいが、口をパクパクさせるだけで、声が出ない。
「そんなビビんなって。さっきまでの威勢はどうした?」
「ハーティガン」と名乗る男が金城の腕をはらいながら言った。そして、やっと金城が声を出した。
「あ、いや…別に、ビビってる訳じゃねえべ……けど、勝てる見込みは無え。けど……」
「けど、あんだけの怪我負わされて、チーム潰されて、自分だけ“カンカン”送られて、おさまりつかねえからぶっ殺したいって訳かい」
「ハーティガン」と名乗る男はステッカーを金城にわたしながら言った。
「安心しな。俺には頼れるバックがついてる」
ステッカーを見た金城は目を丸くした。
「………お前何考えてる?それともお前のバックか?」
「それはお前が首つっこんでいい事じゃねえべ」
「ハーティガン」と名乗る男が金城を睨みつける。金城は慌てて「ハーティガン」と名乗る男の胸倉のシワを直す。
「分かった……。で、鷹沢の居場所は?」
「灯楼校だ。それと、鷹沢の雑魚共も適当に減らしといてくれよ。あいつ殺る時は大勢で行くから雑魚は削っときたいからな」
「わ、分かった」
「期待してるからな。じゃあな」
「ハーティガン」と名乗る男はその場を去って行き、金城の目のとどかない場所でケータイで誰かに電話をかけた。
「金城OKですよ……」
同時刻、灯楼高校の屋上で木田が柵にもたれかかりながら運動場を見下ろしていた。鷹沢が屋上に上がって、木田に近づきながら言った。
「何のつもりだ?」
「何が?」
木田が笑みを浮かべながら答える。
「何がはねえだろ。浩二に何か用があったのか?」
「面白そうな小僧がいるから自己紹介してやっただけだ」
「66の老人がする自己紹介じゃねえな」
「あいつの右手が気になったもんで、年がいもなく派手な自己紹介しちまったよ」
一瞬時間が止まった様に静かになった。
「……いつ気づきやがった?」
「あいつを校門でみかけた時だ」
鷹沢が警戒した目つきで、木田を睨みつける
「相変わらず食えないじいちゃんだな」
「お前も十分食えねえよ。そうだ、そろそろ金城がカンカンから出てくる時間だ。気を付けろよ。この件には何か裏がありそうだしな」
そう言い残して木田は校舎に降りて行った。
鷹沢が体育館裏に行くと舎弟達がにぎやかに鬼頭と話ていた。鷹沢に気づいた鬼頭が声をかけた。
「何してたんだよ!フケたんかと思ったべ」
「今からフケようと思ってたところだ。浩二も一緒に来い」
「今日入学したばっかなんだけど…」
「うるせぇ」
『理不尽な人だ』
結局鷹沢に強引に学校をフケさせられた。帰り道、鷹沢の武勇伝を聞かされながら鬼頭は駅まで行く事になった。
「そんでよお!俺様が右ストレートかわして、あの野朗の左のテンプル(側頭部)を右フックで砕いたんだよ!」
「ふ〜ん」
「何だよォ。信じてねえってか?なんならお前さんの頭カチ割ってやろうか?」
「き、聞いてるって。でも、もしそんだけやれりゃあこの町シメんのも楽勝だべ」
「「もし」じゃねえよ。事実なんだよ。でも、この町シメんのは難しいな」
いつも強気な鷹沢が初めて「難しい」と言ったので鬼頭は少し驚いた。
「え?何で?」
「お前ここらへんで知ってる族の名前全部言ってみろ」
「えっと、まず剛君の「悪神党」と、真樹(まき)の「亞陀血」と、榊原(さかきばら)の「邪神党」ぐらいかな」
鷹沢が小さくため息をつく。
「まあメジャーな所だな」
「あとは…えっと…この町じゃないけど、沢井一平。たしか、こいつは「狂斗会」の頭だったよね?」
「一平は一匹狼だ。てか、全然知らねえなあ。お前結構喧嘩強えから、俺んとこで必要になってくはずだ。だからこの辺りの事情をある程度知ってた方がいいべ。まずこの町で一番でかいチームが、さっきお前が行った「邪神党」だ。その次が「亞陀血」と俺んとこだ。まあ「亞陀血」の真樹はちょっと悪知恵がはたらくだけの狡い小僧だけどな一番の要注意人物が「邪神党」の榊原だ。あいつは強えよ」
『あの剛君がそこまで言う奴がいるんだ…』
鷹沢が続ける。
「ここら辺の族の頭はみんな「邪神党」の幹部の集会に参加してんだよ。つまりみんな「邪神党」の子会社みてえになってんだ。自分とこの子会社潰すアホはさすがにいねから、今んとこ大丈夫かな」
「ふ〜ん。あれ?「邪神党」の幹部は?」
「10人ぐらいいたかな。名前は忘れたけど、俺と真樹以外のチームの頭より強えな。なかなかの面子が集まってるべ」
鬼頭がすっとぼけた声で言う。
「だからさっき「難しい」って言ったんか」
「今の「邪神党」を潰すのは「難しい」じゃすまねえ。不可能だ。けど、どんなジャンルであろうとナンバー1は俺様のためにある」
胸を張りながら鷹沢が言った
「良いアイデアでもあんの?」
「言ったろ?「この辺りの事情をある程度知ってた方がいいな」って。
「邪神党」はこれからお隣さんの「狂斗会」潰して、その勢いで県も自分のもんにする予定らしい」
「でもそんな事すっと潰した方もただじゃすまねえんじゃねえの?」
鷹沢がニヤッと笑いながら言う。
「それだよ。もし「邪神党」が隣の市もシメたら隣との境がなくなるって事だ。だからお隣さんが流れこんでくる、もしくは俺らが流れこむからあちこちで乱闘になる」
『けっこう色々考えてんだな』
鬼頭の中で鷹沢の評価が上がった。
感心した様に鬼頭がしゃべる。
「そういう事か。「邪神党」は乱闘を止めようとしても痛手を負ってるから止めれないし、逆にこっちが潰せれる」
「しかも、自分の勢力の拡大が目的のチームが他の市から集まる」
「じゃあ、この乱闘で勝ち抜けたら、あわよくば県まで取れると」
「その勝ち抜くのが「難しい」って言ったんだべ。じゃ俺こっから原チャで帰るわ。じゃあな」
気がつけばもう駅についていた。
「マッポいるけど」
「あいつ等俺と真樹と榊原にビビッてんだよ。もしパクられそうになったら俺の名前出せば助かるかもしんねえぞ」
そう言い鷹沢は駐輪場に向かっていった。鷹沢の姿が見えなくなったと同時に鬼頭の携帯が鳴った。「立夫」と書いてある。
「今ちょうどフケてきたところだべ♪
浩二もフケただろ?どうせやる事
ねえから会わねえか?
場所はいつもんとこな!!!」
鷹沢が原付きに乗り帰る姿を見届け、返信しようとした。ふと誰かの視線を感じ鬼頭は後ろを振り向いた。誰もいない。電車が来る音が聞こえたので鬼頭は急いで改札口を抜けた。
入り口の側に自販機がある。自販機は改札口からでは見えない。その自販機に男がもたれかかっている男がいる。今日少年院から出てきた金城だ。警察が金城に話しかけてきた。
「出てきたからってやんちゃすんなよ」
「俺もやっとおさまったよ」
金城が面倒くさそうに言った。
「そうか、そうか。最近は族の派閥争いが激しくなってるからな。ま、早いうちに身を引いといて良かったな。じゃあ見回りの途中だからもう行くわ」
警察がその場を去ったと同時に金城は自販機を殴った。
「マッポがあ…!……落ち着け。鷹沢と対人はっても勝てねえ。マッポにパクられる訳にはいかねえ…。」
金城の拳は自販機のプラスチックを破り、偽者のアクエリアスを原型を留めない程に潰していた。
「俺はもう足を洗ったんだ。マッポにパクられる訳にはいかねえ。大丈夫だ。落ち着け。あいつにまかせれば殺れるはずだ…!」
金城はもう一度、自販機を殴った。今度はコーラが潰れた。
「ダメだ…。落ち着けれねえよ…。あいつを殺れるんだ…。あの野朗を…。ぶっ殺してやるよお…。ククッ…。絶対許さねえぞお…コラァ…。ククククッ」
息を切らし、不気味な笑いを上げながら、金城は自販機を殴り続けた。手の甲からは血が出てきている。当然、道行く人は金城を避けながら通っていった。
午後1時。鬼頭は少し急ぎ気味に自転車を走らせていた。大通りの交差点を曲って行き、細い坂道を下って行く。坂道の途中にある門の中に入っていった。孤児院だ。駐輪場に自転車を停め、広場に走っていた。広場のベンチの背もたれに短ランを着た男が座っている。鬼頭はその男に向かって声をかけた。
「立夫!」
立夫と呼ばれた男が鬼頭の方を向き、叫んだ。
「遅えんだよ!」
ベンチに座っていた男の名前は青木立夫(あおき たつお)。鬼頭の親友だが、鬼頭とは違う高校に行っている。
鬼頭が青木に向かって叫び返す。
「うるせえな!原チャ盗られたんだよ!ドライバー持って来たからパクるの手伝えよ!」
「ああ?何パクられてんだよ。じゃあ、俺のでニケツさせてやっから金は払えよ」
「あ?フザけろよ」
鬼頭が冗談まじりでドライバーを青木につきつけながら言った。
「冗談だって。とっとと行こうぜ」
「そう言えば、そろそろゲーセン新作が入ってる頃だな」
ベンチの裏に停めてあった原付に青木がまたがってフカす。鬼頭もまたがろうとした時、孤児院のホールからおばさんが出てきた。
「ここでフカすなって何回言ったら分かるの!」
鬼頭はおばさんに向かって言った。
「大丈夫だってセンセー!すぐ出てくから!」
青木もおばさんに向かって言った。
「今日ここで夕飯食ってくから俺の分も用意しといてね!」
「まったく、たっちゃんは…。浩ちゃんも食べてく?」
「俺は遠慮しとくよ!おい!早く行くべ立夫」
早く遊びに行きたい鬼頭は青木をせかす。それをさえぎるように先生が叫ぶ
「ちょっと待って浩ちゃん!渡したいものがあるから、こっち来て!」
鬼頭は孤児院の先生の所に走っていった。
「少ないけど、浩ちゃんの入学祝。」
先生は鬼頭に封筒を渡した。少し気が引けたが、受け取らない訳にはいかないし、何よりこれから遊びに行くのに金が必要なので好都合だった。
「ありがと」
「ところで、どこの高校に入ったの?」
「ん?高校?灯楼校だけど」
先生の顔色が変わった。
「灯楼校!?」
「うん。じゃあそろそろ行くわ。金ありがとね」
先生は何か言おうとしたが、鬼頭はその前に青木の下へ走ってしまってた。
原付きに乗りながら青木が言う。
「なあ浩二!」
「ん?」
「お前んとこ面白そうな奴いたか?」
「メチャ強え先輩がいるけど、後はどうかな。まあその人がいなかったら、3年までシメれたかもしんねえな。でも結構いい奴ばっかだったべ」
その先輩とは鷹沢の事だ。いい奴とは鷹沢の舎弟の事だ。
「お前んとこは?」
青木が自慢げに言う。
「俺んとこは大したことねえな。一丁前にツっぱってる奴ばっかだけど、みんな雑魚だ。今日はもう2〜3人ボコってやったよ」
『本日二度目の自慢話か』
と、鬼頭が思いながら、上の空で答える。
「元気なこった」
「なあ、誰かタカらねえ?今ちょっと気合入っちまってるからよ」
「その前に原チャパクらねえと」
鬼頭が原付きを盗んだ後、二人は夜までカツアゲして、ゲームセンターに行っての繰り返しをしていた。雨宮と、青木の通っていた中学校はかなり荒れている学校だったが、二人は2年の時には3年までもシメていた程のやり手だった。更に、色々な族からスカウトされていたりもした。
午前2時頃、周りにはさすがにもう人はいない。雨宮が携帯の時間を見て言った。
「俺そろそろ帰るわ」
「マジかよ!仕方ねえなァ。じゃな」
「おお」
雨宮の後ろ姿を見送った青木は原付きに乗って、孤児院まで行った。
「おい!ちょっと止まれやコラァ!」
孤児院の帰り道。青木は孤児院の手前の交差点で固まっていた不良の五人組に止められた。
「今日、ゲーセンで原チャ転がしてた中坊ってのはテメェか?」
「ケッ。だったら何だよ雑魚共が」
「あ?中坊がナメた口聞いてんじゃねえよコラ!」
不良の仲間も調子に乗り、青木に脅しをかける。
「そうだぞテメェ!こっちの頭数考えてみろや!」
「俺らは、あの鷹沢君の「悪神党」だぞ!」
青木の表情が一変した。
「鷹沢?」
「あ?そうだよ。鷹沢君だよ。あれ?もしかしてビビッちゃった?」
青木が拳を強く握る。
「鷹沢だァ?」
―ゴッ!―
嫌な音と共に血しぶきが舞った。青木が不良の一人に思い切り右フックをくらわせる。青木の右フックに弾かれた不良の頭がガードレールに叩きつけられる。やられた不良が頭をおさえながら、失神した。他の不良が青木に向かって叫ぶ
「テ、テメェ!自分が何してんのか分かってんの…」
―メキッ!―
青木の左の跳び膝蹴りが、叫んでいた不良の顎にモロに入る。前歯と血が不良の口から飛び散る。その不良も失神した。青木が残った不良に言う。
「鷹沢が何だ?コラ」
不良がビクつきながら答える。
「いや…。その…」
青木が不良の髪の毛を右手でつかみながら言う。
「おい。テメェらのお友達にちゃんと伝えとけよ。鷹沢んとこの奴は全員潰してやるってよォ。まあ…」
―ドスッ!―
青木の左拳が、髪を掴まれた不良の肝臓のあたりに深くめり込んだ。不良が悶絶しながら体をくの字にする。くの字になるのを待ち構えたかの様に、青木の右アッパーが不良の口の中にめり込む。
「ゲハッ!」
不良の前歯が砕ける。残った不良二人が腰を抜かす。やられた不良は口を押さえながら、もがいている。
―グシャッ!―
青木がもがいている不良の頭を踏みつける。嫌な音が響く。踏みつけたまま青木が残りの二人に言う。
「まあ、口が聞けたらの話だけどな………」
続く
「もしも〜し」
「何だ?起きたばっかか?」
寝起きの男がすっとぼけた声で返事をする。
「…えっと、誰?てか、こんな朝っぱらから電話掛けんなよ。もう切るべ?」
「何だ?寝ボケてるのか?俺だよ。俺」
寝起きの男が少し考える。ハッとして、途端に態度をを変える。
「すいません。あの…違うんです。さっきのは親に言ってたんですよ。その…」
「まあ、いい。それより、今日の午前10時にカンカンに行け。」
『人使い荒っ』
寝起きの男はそう思いながら言う。
「え?何でですか?」
電話の主がため息をつきながら言う
「今日、金城が出てくるって言ったろ?」
「あっ。すいません。忘れてました」
「10時だからな。忘れるなよ」
寝起きの男が不適な笑みを浮かべながら言う。
「分かってますよ。金城が揃えば、準備は完了ですか…」
電話はもう切られていた。
『人使い荒っ』
午前8時。灯楼高校の入学式の日。
校門に手袋をつけ、短ランを着た少年が立っている。名前は鬼頭浩二(きとう こうじ)。鬼頭が灯楼高校に入学したのには理由がある。鷹沢剛(たかざわ つよし)と言う男に会うっためだ。横を通り過ぎていく二人の新入生が何やら話している。
「なぁ、この高校ってあの鷹沢がいるんだろ?」
「ああ。こんな事になるならもっと勉強して上の高校行けばよかった…」
「今更遅えよ。でも空手とか格闘技始めりゃ今からでもなんとかなるんじゃね?」
「いやダメだ。アイツ40人以上の族にかこまれて、全員病院送りにしたとか、あの殺魔会の頭をコンクリの壁に投げつけて、壁にめり込ませたりしたとか…。とにかく逆らったら壁にめり込むぞ」
鬼頭はその会話を聞きクスッと笑い、その場を去った。それを少し遠くから含みのある笑みをうかべながら眺めている、65歳過ぎ位の老人がいた。老人は笑みをうかべながら、箒を持ってその場から離れた。
入学式が始まったが、鬼頭はいなかった。鬼頭は鷹沢を探していた。体育館の裏に言ってみると不良がたまっている。その中にとびぬけて大きい男がいる。その男は鬼頭に気づき、近づいてきた。
「よお!久しぶりだな浩二!お前なら同じ高校来てくれるって信じてたべ!」
「剛君は相変わらず声と図体がでけえな。」
「ははは!おまえも相変わらず憎まれ口ばっか叩くな!」
鷹沢の舎弟達がポカンと二人の会話を見ていた。
「あの鷹沢さん…コイツ知り合いですか?」
「おお!確か小3の頃俺が転校した以来だよな?」
「小4ね。ところでさあ、俺剛君のチーム入れてもらいたくて俺このガッコに来たんだけど!」
「おお!良いべ!お前なら大歓迎だ!おいテメェら!ちゃんと仲良くしてやれよ!」
普段、舎弟以外の人間と話さない鷹沢が軽快にトークをはずませているのをポカンと見ながら、舎弟の一人が煙草を弾いた。煙草は地面に落ちる前にキャッチされた。キャッチしたのは箒を持った65過ぎ位の老人だった。老人は器用に落下中の煙草のフィルターの部分をつかんでいた。
「おい小僧共、あんまり煙草捨てんなよ。掃除する奴の身になってみろ」
全員に視線が老人に向いた。さっきの舎弟が煙草に火をつけながら言った。
「あ?文句あんのかジ…」
―シュッ―
老人が鷹沢の舎弟のタバコを奪い、ゴミ袋に入れた。鷹沢以外のそこにいる全員は老人が煙草を取る瞬間が見えなかった。
「ジジイにあんま手間かけさせんなよ」
老人はそう言い鬼頭の方を向いて言った。
「俺はこのガッコで用務員やってる木田厳(きだ げん)だ。よろしくな」
そう言い老人は含みのある笑みを浮かべながら校舎の方へ向かっていった。全員あっけにとられている。
「剛君。あの木田とかいうジジイ何?」
鬼頭がそう言って鷹沢の方を向いたが、鷹沢はそこにいなかった。
午前10時。少年院から一人の男が出てきた。それを出迎えるように少年院の入り口の前に立っている男がいた。少年院から出てきた男が言った。
「俺を出迎えてくれる奴はいねえはずだべ」
待ち構えていた男がヘラヘラしながら答える。
「出てきて早速で悪いけど、お仕事ですよ金・城・君♪」
金城(かねしろ)と呼ばれた男がヘラヘラした男を少し睨みつけ、ヘラヘラした男の横を通りすぎて行った。ヘラヘラした男は金城について行く。二人が少年院の角を曲がって少し歩いた所で金城が口を開けた。
「ヘラヘラしやがって…。何のつもりだよテメェ。どこのもんだ?」
「この町のハーティガンだよ」
金城が険しい顔つきで、「ハーティガン」と名乗るおどけた男を睨みつける。
「ふざけやがって…。良い仕事紹介してくれるんなら良いが、そんな仕事を頼む様には見えねえしな。残念だが、俺はもう足を洗ったから他をあたれ」
金城はそう言い残し、その場を離れようとした。すると「ハーティガン」と名乗る男が金城を睨みつけながら言た。
「鷹沢に負けちゃったから?」
金城が足を止めた。
「今、何つった?」
「ハーティガン」と名乗る男は含みのある笑みを浮かべながら言った。
「だから〜、鷹沢に負けちゃったから、足洗ったの?って聞いてんだべ」
金城が「ハーティガン」と名乗る男の胸倉をつかみ、額を軽くぶつける。
「さっきから聞いてりゃ調子に乗りやがって!」
「怖い、怖い。そんだけ怖いのに足なんか洗っちゃったら勿体ねえよ」
金城が更に強く胸倉をつかむ。
「足洗うのは、鷹沢に負けたからじゃねえべ。カンカン入ってたら、族がつまんなくなっちまっただけだべ!テメェみてえな奴らがな!」
「つまんなくて悪いが、お仕事だ。鷹沢殺して来いよ」
ふと、金城の腕が緩んだ。
「………………」
金城は何か喋ろうとしたらしいが、口をパクパクさせるだけで、声が出ない。
「そんなビビんなって。さっきまでの威勢はどうした?」
「ハーティガン」と名乗る男が金城の腕をはらいながら言った。そして、やっと金城が声を出した。
「あ、いや…別に、ビビってる訳じゃねえべ……けど、勝てる見込みは無え。けど……」
「けど、あんだけの怪我負わされて、チーム潰されて、自分だけ“カンカン”送られて、おさまりつかねえからぶっ殺したいって訳かい」
「ハーティガン」と名乗る男はステッカーを金城にわたしながら言った。
「安心しな。俺には頼れるバックがついてる」
ステッカーを見た金城は目を丸くした。
「………お前何考えてる?それともお前のバックか?」
「それはお前が首つっこんでいい事じゃねえべ」
「ハーティガン」と名乗る男が金城を睨みつける。金城は慌てて「ハーティガン」と名乗る男の胸倉のシワを直す。
「分かった……。で、鷹沢の居場所は?」
「灯楼校だ。それと、鷹沢の雑魚共も適当に減らしといてくれよ。あいつ殺る時は大勢で行くから雑魚は削っときたいからな」
「わ、分かった」
「期待してるからな。じゃあな」
「ハーティガン」と名乗る男はその場を去って行き、金城の目のとどかない場所でケータイで誰かに電話をかけた。
「金城OKですよ……」
同時刻、灯楼高校の屋上で木田が柵にもたれかかりながら運動場を見下ろしていた。鷹沢が屋上に上がって、木田に近づきながら言った。
「何のつもりだ?」
「何が?」
木田が笑みを浮かべながら答える。
「何がはねえだろ。浩二に何か用があったのか?」
「面白そうな小僧がいるから自己紹介してやっただけだ」
「66の老人がする自己紹介じゃねえな」
「あいつの右手が気になったもんで、年がいもなく派手な自己紹介しちまったよ」
一瞬時間が止まった様に静かになった。
「……いつ気づきやがった?」
「あいつを校門でみかけた時だ」
鷹沢が警戒した目つきで、木田を睨みつける
「相変わらず食えないじいちゃんだな」
「お前も十分食えねえよ。そうだ、そろそろ金城がカンカンから出てくる時間だ。気を付けろよ。この件には何か裏がありそうだしな」
そう言い残して木田は校舎に降りて行った。
鷹沢が体育館裏に行くと舎弟達がにぎやかに鬼頭と話ていた。鷹沢に気づいた鬼頭が声をかけた。
「何してたんだよ!フケたんかと思ったべ」
「今からフケようと思ってたところだ。浩二も一緒に来い」
「今日入学したばっかなんだけど…」
「うるせぇ」
『理不尽な人だ』
結局鷹沢に強引に学校をフケさせられた。帰り道、鷹沢の武勇伝を聞かされながら鬼頭は駅まで行く事になった。
「そんでよお!俺様が右ストレートかわして、あの野朗の左のテンプル(側頭部)を右フックで砕いたんだよ!」
「ふ〜ん」
「何だよォ。信じてねえってか?なんならお前さんの頭カチ割ってやろうか?」
「き、聞いてるって。でも、もしそんだけやれりゃあこの町シメんのも楽勝だべ」
「「もし」じゃねえよ。事実なんだよ。でも、この町シメんのは難しいな」
いつも強気な鷹沢が初めて「難しい」と言ったので鬼頭は少し驚いた。
「え?何で?」
「お前ここらへんで知ってる族の名前全部言ってみろ」
「えっと、まず剛君の「悪神党」と、真樹(まき)の「亞陀血」と、榊原(さかきばら)の「邪神党」ぐらいかな」
鷹沢が小さくため息をつく。
「まあメジャーな所だな」
「あとは…えっと…この町じゃないけど、沢井一平。たしか、こいつは「狂斗会」の頭だったよね?」
「一平は一匹狼だ。てか、全然知らねえなあ。お前結構喧嘩強えから、俺んとこで必要になってくはずだ。だからこの辺りの事情をある程度知ってた方がいいべ。まずこの町で一番でかいチームが、さっきお前が行った「邪神党」だ。その次が「亞陀血」と俺んとこだ。まあ「亞陀血」の真樹はちょっと悪知恵がはたらくだけの狡い小僧だけどな一番の要注意人物が「邪神党」の榊原だ。あいつは強えよ」
『あの剛君がそこまで言う奴がいるんだ…』
鷹沢が続ける。
「ここら辺の族の頭はみんな「邪神党」の幹部の集会に参加してんだよ。つまりみんな「邪神党」の子会社みてえになってんだ。自分とこの子会社潰すアホはさすがにいねから、今んとこ大丈夫かな」
「ふ〜ん。あれ?「邪神党」の幹部は?」
「10人ぐらいいたかな。名前は忘れたけど、俺と真樹以外のチームの頭より強えな。なかなかの面子が集まってるべ」
鬼頭がすっとぼけた声で言う。
「だからさっき「難しい」って言ったんか」
「今の「邪神党」を潰すのは「難しい」じゃすまねえ。不可能だ。けど、どんなジャンルであろうとナンバー1は俺様のためにある」
胸を張りながら鷹沢が言った
「良いアイデアでもあんの?」
「言ったろ?「この辺りの事情をある程度知ってた方がいいな」って。
「邪神党」はこれからお隣さんの「狂斗会」潰して、その勢いで県も自分のもんにする予定らしい」
「でもそんな事すっと潰した方もただじゃすまねえんじゃねえの?」
鷹沢がニヤッと笑いながら言う。
「それだよ。もし「邪神党」が隣の市もシメたら隣との境がなくなるって事だ。だからお隣さんが流れこんでくる、もしくは俺らが流れこむからあちこちで乱闘になる」
『けっこう色々考えてんだな』
鬼頭の中で鷹沢の評価が上がった。
感心した様に鬼頭がしゃべる。
「そういう事か。「邪神党」は乱闘を止めようとしても痛手を負ってるから止めれないし、逆にこっちが潰せれる」
「しかも、自分の勢力の拡大が目的のチームが他の市から集まる」
「じゃあ、この乱闘で勝ち抜けたら、あわよくば県まで取れると」
「その勝ち抜くのが「難しい」って言ったんだべ。じゃ俺こっから原チャで帰るわ。じゃあな」
気がつけばもう駅についていた。
「マッポいるけど」
「あいつ等俺と真樹と榊原にビビッてんだよ。もしパクられそうになったら俺の名前出せば助かるかもしんねえぞ」
そう言い鷹沢は駐輪場に向かっていった。鷹沢の姿が見えなくなったと同時に鬼頭の携帯が鳴った。「立夫」と書いてある。
「今ちょうどフケてきたところだべ♪
浩二もフケただろ?どうせやる事
ねえから会わねえか?
場所はいつもんとこな!!!」
鷹沢が原付きに乗り帰る姿を見届け、返信しようとした。ふと誰かの視線を感じ鬼頭は後ろを振り向いた。誰もいない。電車が来る音が聞こえたので鬼頭は急いで改札口を抜けた。
入り口の側に自販機がある。自販機は改札口からでは見えない。その自販機に男がもたれかかっている男がいる。今日少年院から出てきた金城だ。警察が金城に話しかけてきた。
「出てきたからってやんちゃすんなよ」
「俺もやっとおさまったよ」
金城が面倒くさそうに言った。
「そうか、そうか。最近は族の派閥争いが激しくなってるからな。ま、早いうちに身を引いといて良かったな。じゃあ見回りの途中だからもう行くわ」
警察がその場を去ったと同時に金城は自販機を殴った。
「マッポがあ…!……落ち着け。鷹沢と対人はっても勝てねえ。マッポにパクられる訳にはいかねえ…。」
金城の拳は自販機のプラスチックを破り、偽者のアクエリアスを原型を留めない程に潰していた。
「俺はもう足を洗ったんだ。マッポにパクられる訳にはいかねえ。大丈夫だ。落ち着け。あいつにまかせれば殺れるはずだ…!」
金城はもう一度、自販機を殴った。今度はコーラが潰れた。
「ダメだ…。落ち着けれねえよ…。あいつを殺れるんだ…。あの野朗を…。ぶっ殺してやるよお…。ククッ…。絶対許さねえぞお…コラァ…。ククククッ」
息を切らし、不気味な笑いを上げながら、金城は自販機を殴り続けた。手の甲からは血が出てきている。当然、道行く人は金城を避けながら通っていった。
午後1時。鬼頭は少し急ぎ気味に自転車を走らせていた。大通りの交差点を曲って行き、細い坂道を下って行く。坂道の途中にある門の中に入っていった。孤児院だ。駐輪場に自転車を停め、広場に走っていた。広場のベンチの背もたれに短ランを着た男が座っている。鬼頭はその男に向かって声をかけた。
「立夫!」
立夫と呼ばれた男が鬼頭の方を向き、叫んだ。
「遅えんだよ!」
ベンチに座っていた男の名前は青木立夫(あおき たつお)。鬼頭の親友だが、鬼頭とは違う高校に行っている。
鬼頭が青木に向かって叫び返す。
「うるせえな!原チャ盗られたんだよ!ドライバー持って来たからパクるの手伝えよ!」
「ああ?何パクられてんだよ。じゃあ、俺のでニケツさせてやっから金は払えよ」
「あ?フザけろよ」
鬼頭が冗談まじりでドライバーを青木につきつけながら言った。
「冗談だって。とっとと行こうぜ」
「そう言えば、そろそろゲーセン新作が入ってる頃だな」
ベンチの裏に停めてあった原付に青木がまたがってフカす。鬼頭もまたがろうとした時、孤児院のホールからおばさんが出てきた。
「ここでフカすなって何回言ったら分かるの!」
鬼頭はおばさんに向かって言った。
「大丈夫だってセンセー!すぐ出てくから!」
青木もおばさんに向かって言った。
「今日ここで夕飯食ってくから俺の分も用意しといてね!」
「まったく、たっちゃんは…。浩ちゃんも食べてく?」
「俺は遠慮しとくよ!おい!早く行くべ立夫」
早く遊びに行きたい鬼頭は青木をせかす。それをさえぎるように先生が叫ぶ
「ちょっと待って浩ちゃん!渡したいものがあるから、こっち来て!」
鬼頭は孤児院の先生の所に走っていった。
「少ないけど、浩ちゃんの入学祝。」
先生は鬼頭に封筒を渡した。少し気が引けたが、受け取らない訳にはいかないし、何よりこれから遊びに行くのに金が必要なので好都合だった。
「ありがと」
「ところで、どこの高校に入ったの?」
「ん?高校?灯楼校だけど」
先生の顔色が変わった。
「灯楼校!?」
「うん。じゃあそろそろ行くわ。金ありがとね」
先生は何か言おうとしたが、鬼頭はその前に青木の下へ走ってしまってた。
原付きに乗りながら青木が言う。
「なあ浩二!」
「ん?」
「お前んとこ面白そうな奴いたか?」
「メチャ強え先輩がいるけど、後はどうかな。まあその人がいなかったら、3年までシメれたかもしんねえな。でも結構いい奴ばっかだったべ」
その先輩とは鷹沢の事だ。いい奴とは鷹沢の舎弟の事だ。
「お前んとこは?」
青木が自慢げに言う。
「俺んとこは大したことねえな。一丁前にツっぱってる奴ばっかだけど、みんな雑魚だ。今日はもう2〜3人ボコってやったよ」
『本日二度目の自慢話か』
と、鬼頭が思いながら、上の空で答える。
「元気なこった」
「なあ、誰かタカらねえ?今ちょっと気合入っちまってるからよ」
「その前に原チャパクらねえと」
鬼頭が原付きを盗んだ後、二人は夜までカツアゲして、ゲームセンターに行っての繰り返しをしていた。雨宮と、青木の通っていた中学校はかなり荒れている学校だったが、二人は2年の時には3年までもシメていた程のやり手だった。更に、色々な族からスカウトされていたりもした。
午前2時頃、周りにはさすがにもう人はいない。雨宮が携帯の時間を見て言った。
「俺そろそろ帰るわ」
「マジかよ!仕方ねえなァ。じゃな」
「おお」
雨宮の後ろ姿を見送った青木は原付きに乗って、孤児院まで行った。
「おい!ちょっと止まれやコラァ!」
孤児院の帰り道。青木は孤児院の手前の交差点で固まっていた不良の五人組に止められた。
「今日、ゲーセンで原チャ転がしてた中坊ってのはテメェか?」
「ケッ。だったら何だよ雑魚共が」
「あ?中坊がナメた口聞いてんじゃねえよコラ!」
不良の仲間も調子に乗り、青木に脅しをかける。
「そうだぞテメェ!こっちの頭数考えてみろや!」
「俺らは、あの鷹沢君の「悪神党」だぞ!」
青木の表情が一変した。
「鷹沢?」
「あ?そうだよ。鷹沢君だよ。あれ?もしかしてビビッちゃった?」
青木が拳を強く握る。
「鷹沢だァ?」
―ゴッ!―
嫌な音と共に血しぶきが舞った。青木が不良の一人に思い切り右フックをくらわせる。青木の右フックに弾かれた不良の頭がガードレールに叩きつけられる。やられた不良が頭をおさえながら、失神した。他の不良が青木に向かって叫ぶ
「テ、テメェ!自分が何してんのか分かってんの…」
―メキッ!―
青木の左の跳び膝蹴りが、叫んでいた不良の顎にモロに入る。前歯と血が不良の口から飛び散る。その不良も失神した。青木が残った不良に言う。
「鷹沢が何だ?コラ」
不良がビクつきながら答える。
「いや…。その…」
青木が不良の髪の毛を右手でつかみながら言う。
「おい。テメェらのお友達にちゃんと伝えとけよ。鷹沢んとこの奴は全員潰してやるってよォ。まあ…」
―ドスッ!―
青木の左拳が、髪を掴まれた不良の肝臓のあたりに深くめり込んだ。不良が悶絶しながら体をくの字にする。くの字になるのを待ち構えたかの様に、青木の右アッパーが不良の口の中にめり込む。
「ゲハッ!」
不良の前歯が砕ける。残った不良二人が腰を抜かす。やられた不良は口を押さえながら、もがいている。
―グシャッ!―
青木がもがいている不良の頭を踏みつける。嫌な音が響く。踏みつけたまま青木が残りの二人に言う。
「まあ、口が聞けたらの話だけどな………」
続く