蛍光灯
sai作
もうすぐ怖いことが起こる。
これは直感。私の嫌な予感とやらは無駄に良く当たるから性質が悪い。
もう初夏だというのに厚い布団に包まって長いこと眠れずにいる。それでも体の寒気は一向に取れそうにない。ただ手だけがじっとりと湿って異様に熱かった。
手が冷たい人は心が温かい、と誰かが言っていた気がする。もしも本当ならば今の私の心は乾いて冷め切っているということなのだろうか。そんなどうでもいいようなことでも何か考えていないと気が狂いそうだった。
一人、闇の中に飲み込まれるような感覚。
厳密には辺りが見えないほど暗いわけではないのだが、どうして気持ちの悪さが抜けない。壁越しに聞こえてくるのは紛れもなく母の声のはずなのにそれにさえも孤独を感じてしまうのは、それが男と話す女の声だったからだろう。
割り切ったはずだった。私には不可侵な、あの人の人生があると。
ひどい嫌悪感を覚え、耳を塞いでも頭の中で反響する疑問は止められそうにない。
――もうすぐ、怖いことが起こる。
こんな夜はいつも幼いときのことを思い出してしまう。父が出て行ってもう随分経つのに、今だに涙が出るのは何故だろうか。あんな奴、出て行ってくれてありがたいとまで思っていても、感情とは不思議なもので、何度声を殺して泣いたかわからない。
扉の向こうの声が途切れたかと思うと、またすぐいつもと同じ着信音が鳴り出す。
(眠れない…)
扉の隙間から零れる蛍光灯の白い光が妙に痛かった。
これは直感。私の嫌な予感とやらは無駄に良く当たるから性質が悪い。
もう初夏だというのに厚い布団に包まって長いこと眠れずにいる。それでも体の寒気は一向に取れそうにない。ただ手だけがじっとりと湿って異様に熱かった。
手が冷たい人は心が温かい、と誰かが言っていた気がする。もしも本当ならば今の私の心は乾いて冷め切っているということなのだろうか。そんなどうでもいいようなことでも何か考えていないと気が狂いそうだった。
一人、闇の中に飲み込まれるような感覚。
厳密には辺りが見えないほど暗いわけではないのだが、どうして気持ちの悪さが抜けない。壁越しに聞こえてくるのは紛れもなく母の声のはずなのにそれにさえも孤独を感じてしまうのは、それが男と話す女の声だったからだろう。
割り切ったはずだった。私には不可侵な、あの人の人生があると。
ひどい嫌悪感を覚え、耳を塞いでも頭の中で反響する疑問は止められそうにない。
――もうすぐ、怖いことが起こる。
こんな夜はいつも幼いときのことを思い出してしまう。父が出て行ってもう随分経つのに、今だに涙が出るのは何故だろうか。あんな奴、出て行ってくれてありがたいとまで思っていても、感情とは不思議なもので、何度声を殺して泣いたかわからない。
扉の向こうの声が途切れたかと思うと、またすぐいつもと同じ着信音が鳴り出す。
(眠れない…)
扉の隙間から零れる蛍光灯の白い光が妙に痛かった。