ノベルる

「奇襲」

珀宮 由有作
ずっと一緒にいようと約束して、手を繋いで歩いてた。でも、いつの間にか手は消えて、目の前に広がる赤い液体・・・
幼い僕を襲った、突然現れた光景。僕の小さな幸せが、一瞬にして砕け散った時、兄はもう死んでいた。
ずっと一緒にいようと、あの日約束したじゃないか!
二度とこの手を離さないと、僕等は神に誓ったじゃないか!!
嘘つき・・・・・兄さんの嘘つき・・・!!
あの日から僕の母さんは僕を抱きしめることもなく、毎晩毎晩泣いていた。
真っ暗の中の母さんは、陰で黒くなっていて、涙だけが月の光を受けて輝いていた。
外に出ると、夜空には無数の星が輝いている。

綺麗・・・あの中に、僕の兄さんはいるのかな?

そう思うと、空を掴みたくなって手を伸ばす。掌には何もない。当たり前だ、空はどこまでも広いのだから・・・
遠い、遠すぎる・・・あんなに近くにいた兄さんは、もう手の届かない程、遠かった。
そして、僕は思った。

「あの空へ逝きたい」

・・・と
だけど、死に方さえ知らない幼い僕は、母さんに僕を殺してと言った。そしたら母さんは僕に泣きながら言った。
「アナタは私と生きてはくれないの?」「アナタは私を一人ぼっちにしてしまうの?」「私はアナタに慰めて欲しいのに」
慰めて欲しいのは僕なのに・・・
母さんはもう駄目だった
僕はもう死ということに畏怖することなく、ただ・・・兄に会いたかった。
ふと、僕は外へと飛び出すとあの時と同じ状況に陥った。僕の身体は宙を舞い、僕は道に倒れた。

次に目を開けた時は、真っ暗な空間に僕と兄が・・・
「兄さん!!」
僕は走って、兄の手を握り締めた。兄は僕に囁く。
「言ったろ?ずっと一緒にいるって」
僕の幸せはまた還ってきたんだと、僕は確信した・・・
僕等はこの手を二度と離すまいと握り締めて・・・・


家の前に倒れていた僕の亡骸を見た母さんは、ポツリと呟いた。

「もう、一緒に生きてはくれないんだね」

・・・・と

-END-

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