ノベルる

お隣の変わり人

パセリハンター
  キーンコーンカーンコーン
  ここはとある所にある桜木中学校。ここに、一人の少年が転校してきた。
「よし、この学校で学年トップの座を取ってやる!!」
  カーンコーンキーンコーン
「ああ、楽しみだ!!」
  見た目はなかなかの美少年だ。きらきらと輝いている。
  その時・・・・・・
「おい、そこの君。チャイムが鳴ったぞ、遅刻だ」
  気がつくと目の前に教師が立っていた。少年は辺りを見回した。自分と教師意外は誰もいない。少年はあんぐりとした顔で口を開いた。
「え?オレ?」
「そう。君」
「マジ、オレっスか?」
「マジで君だ。わけの分からない事を言っていないでさっさと行くんだ」
「ハイ!!」
  少年は校舎に向かって走った。全速力で。

「にゃほ?人間が走っているじょー」
  2階の窓からその様子を一人の女子生徒が見ていた。
「先生!なつみが誰かを見つけたようです」
と、友人らしき人物が先生に言った。
「そうか、やっと来たか。多分あいつがこのクラスに来る転校生だろう」
  教室中の生徒達が「うそ、どんな人?」や「かっこいい!!」などと言いながら窓側に集まってきた。
「走るの速いにゃ・・・・・・あ、こけた」
  みんながどっと笑った。
「さあ、全員席に着くんだ。健康観察をするぞ」
「はーい」と言ってみんなは席に着いた。
  一人だけ窓の外を見たままだった。さっきの女子生徒だ。
「転校生・・・・・・か」

「やべっ!遅刻だ」
  先ほどの少年は階段を1段抜かしで上っていた。
  2年B組。
「すいません!遅れてしまいました」
「いや、朝の会だ。授業ではないし大丈夫だ。だが、遅刻には違いは無い」
「・・・・・・すみません」
「まあ、いいだろう。みんな、この人が今日からこのクラスに加わる転校生の岡田広樹君だ。彼は、前の学校でずっと学年トップの成績を維持していたそうだ。わからない所は彼に聞けばいいな。はっはっは」
  何笑ってんだよ、このメガネジジイ。
「どうも、よろしく」
  教室中の女子達がキャーキャー叫んでいる。
「じゃあ、君は森山君の後ろだ。あの背の高い人な」
「はい」
  窓側の席だった。隣には可愛い女子がいた。ずっと窓の外を見ている。
  朝の会も終わり、休み時間になった。
  すると、横から笑顔で・・・・・・
「にゃー、モーニング!!あたし、なつみ。よろしくにぇ。にゃはは」
  ?!!
「ああ、よろしくな」
  岡田の表情は怖かった。そして、一目散に教室から飛び出した。
  何なんだ?!さっきは可愛いと思ったのに・・・・・・
  廊下の途中にさっきの森下を見つけた。
「ねえ、森下君、ちょっといいかな?」
「ああ、啓一って呼んでくれ。よろしくな」
「オレは広樹。よろしく」
「それで、どうしたんだ?」
  ああ、そうだった。
「あのさ、オレの隣のやつ・・・・・・」
「ああ、なつみか」
  どうやら男女関係無くなつみと呼ばれているのだろう。
「その人って、何か障害者?」
「いや、違うけど」
「じゃあ、あの宇宙語は、一体・・・・・・」
「いや、あいつ、最近猫を飼ったんだって。すると、あんな言葉になったんだ。前、学校に猫を持ってきて、みんなに見せてくれたんだ。いやあ、可愛い三毛猫でさ、なつみそっくりなんだよ。その後が爆笑でさ、その猫がいると授業にならなくてさ、それを見ていた校長先生が『私があずかる』って言って猫が連れて行かれちゃったんだよ。帰りに校長室に寄って行ったら校長先生がありえないくらいかわいがってて、別れる時に校長先生が泣いていたらしーぜ。あははっ、爆笑だぜ」
  オレも猫を飼っているぞ。飼っているけど、アイツみたいにはなっていない。絶対にあいつは人間じゃねえ。
「まあ、一緒にいればわかってくるさ」
「そうか?」
「ああ、仲良くしてみろよ」
「・・・・・・わかった」

  ・・・・・・とは言いつつも仲良くなれるわけが無い。
  1時間目は理科。オレは今、となりの席の人とペアになって実験をしている。
「なあ、これってやばいんじゃねえ?」
  ビーカーのお湯をガスバーナーで温めているのだが、隣の『ヤツ』のせいでやばいことをしている。1つを温めるだけなのにガスバーナーを3台合わせて使っている。これ、あぶないだろ・・・・・・。
「大丈夫にゃ!!・・・・・・多分」
  危険すぎる。
「なら、中止だ」
「ええ?!」
「だってそうだろ!!ここが火事になったらどうするんだ!!」
「・・・・・・火事場の馬鹿力」
  意味がわからん。
「ふざけるな!!」
  もうキレた。
「おい、そこの君たちふざけあっているのなら罰として廊下で立っていなさい」
  あーあ、先生に怒られちまったじゃねえか。

「ああ、少し寒いな・・・・・・」
「あたしもにゃー」
  廊下は少し寒かった。秋の寒い風が廊下に吹きぬける。
「こうなったのもお前のせいだぞ」
「すまぬでござる」
  こいつ、絶対反省してねー。
「やれやれ」

  2時間目は社会。
「えー、ここはえー日本はえー8月15日にえー」
  何て聞き取りにくい日本語を話すんだバカ!!わからねえじゃねえか!!
「おい、そこのお前」
「なつみって呼んでじょ」
「はいはい。なつみさん」
「どしたにょ?」
「あの先生の授業はいつもああなのか?」
「そうだにゃ」
「マジかよ・・・・・・ってお前!!漫画読んでんじゃねえよ!!」
「にゃ?これ?『日本の歴史』といってにぇ、日本の歴史がよくわかるんだにゃー」
  お前の日本語も聞きにくい。
「おい、そこの君たちふざけあっているのなら罰として廊下で立っていなさい」
  あーあ、また先生に怒られちまったじゃねえか。

「おい、まただぞ。どうしてくれるんだ。勉強できねえじゃねえか!!」
「あたしが教えてあげようか?」
「お前なんかができるもんか」
「お前じゃなくてなつみだってば!!君、ノリが悪いにゃ」
  いや、そんな問題ではないと思う。
「それにしても寒いな・・・・・・」
  そういってポケットに手を突っ込んだ。
「ポケットに手を突っ込むにゃ!!」
「ぐはっ?!」
  アッパーをもろに食らってしまった。
「な、なにすんだよ!!」
「だめだにゃ!!」
「何でだよ?!」
  なつみは、やれやれといった感じの顔でため息をついた。
「これには、理由があるんだにょ。聞きたいにゃ?」
「聞きたいにゃー」
  しまった!!つい、つられて言ってしまったじゃねえか!!
「ポケットに手を突っ込んで歩いているとにぇ、うっかり何かに躓いて転ぶと、ポケットに手を突っ込んでいたままだと、とっさに手をつく事が出来なくて顔から転んでしまうんだじょ」
「んなバカな話・・・・・・」
「我輩が体験しにゃ。その時にあごがかち割れちゃったにょ」
  どこまで馬鹿なんだ・・・・・・。聞いているこっちが悲しくなってきた。
「まあ、手が寒いときはこうするんだにょ・・・・・・ハー、ハーって」
「うわぁ!!それオレの手じゃねえか!!」
  ―――なんて温かいんだ、こいつの手は・・・・・・。
「わぁ、イノキの手ってつめたいにゃー」
「イノキじゃねぇ!!広樹だ!!どうしたらそう間違えるんだ!!しかも、何でオレの名前を知っているんだ?!!」
「・・・・・・乙女のヒ・ミ・ツ」
  また意味のわからんことを・・・・・・。
  は!!そういえば自己紹介のときにみんなに知られているんだった。何が秘密だよ・・・・・・。

  3時間目は音楽。
「はいはい、そこの2人、うるさいから廊下で立っていてちょうだい」

  4時間目は数学。
「そこの2人、じゃれあっているのなら、廊下でしていなさい」

  今、気がついた。もしかしてオレ(と、なつみ)って午前中ずっと授業を受けてないんじゃ・・・・・・。
「つかれたにゃー」
  授業受けてないだろ?!(オレもだけど)
  森山がやってきた。(一応昼休みだし)
「なぁ、お前大丈夫か?午前中ずっと授業受けてないだろ。テストも近いんだぜ」
「ええ!!マジかよ」
「それに、もう仲良くなったみたいだな」
「・・・・・・最悪だ」
  どうしてこんなヤツが隣なんだよ・・・・・・。しかも、なつみのまわりにたくさん女子がたまっている。
「きゃー!!なつみカワイー!!」
「にゃほ?」
「サイコー!!」
  そうかい、こっちは最悪だぜ。
「腹が減ったな・・・・・・?!!」
「広樹、どうした!!」
「そういえば、オレ、弁当持ってきてない・・・・・・」
「それはヤベェよオレの食べる?」
「いや、いいよ。お前、育ち盛りだろ?」
  オレもだけどな。
「それにゃら、あたしの食べりゅ?」
  なつみがそう言って、クッキーやシュークリームを取り出した。
「ああ、それ、私のつくったやつなの。今回はね、なっちゃんが猫語を話しているから、猫ちゃん大喜びのお魚クッキーだにゃーん!!えへへ、なっちゃんのまね〜」
  猫語ってあるのかよ?!いや、アレは宇宙語だ!!(宇宙語もあるのか?!)しかも、猫ちゃんを大喜びさせたいならよ、クッキーじゃなくてよ、猫まんまにしろっ!猫まんま!!
「私のシュークリーム、可愛いでしょ?猫耳をつけてみたのっ!!なつみちゃんに食べてもらえないのは残念だけど、カッコいい岡田君に食べてもらえるのってうれしー!!」
「どうにゃ?イノキ、食べりゅ?」
  だから、イノキじゃねぇ!!
「ああ、サンキューな」
  一応受け取った。さすが女子達だ。見た目にこだわっている。まさか、女子が女子にあげるとは・・・・・・。
「広樹、いいなぁ。オレなんか女子からもらったことねぇし・・・・・・」
「わけてやるよ。ほらよっ」
  楽しい昼食だった。まあ、隣の席に集まっている女子の話し声(ほぼ叫び声に近い)を気にしなかったら、だけどな。

  時は過ぎて・・・・・・

  帰りの会。
「こんな時にすまないが、今度の中間テストの範囲表を配るぞ」
  ?!!
  ようやく来たか!!これでこの学年のトップは頂いた!!
「にゃー、範囲が広いじょー」
  なんか、横で言ってやがんの。どうせ、お前は学年ビリなんだろ?
  よし、これからは本気出していくとするか。

  そして、オレの勉強生活が始まった。

  数日後。
「おい、広樹、大丈夫か?」
「ああ、なんとか・・・・・・」
  ああ、最近は夜通し勉強をしているからきついな・・・・・・。なぜか、横の席のヤツもへばっている。
「おい、なつみ。大丈夫か?」
「広樹、お前、最近優しくなってきたんじゃねえ?」
  森山がちゃかす。
  今思うと、確かにそうかもしれない。オレ、宇宙人と一緒にいると、宇宙人パワーなのか知らないが、少しずつ心が洗われていくようだ・・・・・・。
「にゃほー、眠い」と、つぶやいている。
「はいはい」
  どうせ、たいして勉強してないんだろ?

「それじゃあ、解答用紙を配るぞ。問題用紙もこれから配る」
  うわ、何だ?!この解答欄の数は。本当にこんなの中学生が出来るのか?!
  時計の秒針の動きを教室中の全員が静かに見据えている。
「・・・・・・開始!!」
  全員が一斉に問題用紙を開く。
  ―――ここで、オレの今までの努力を見せつけてやるぜ!!

終わった時は、最高の出来だと感じた。

  一週間後。
テストも返ってきて順位の貼り出しの時が来た。この学校では、20番からトップまでの順位が貼り出される。順位と名前、合計点数が発表される。
「広樹、楽しみだな。俺、番数上がっていたらいいな」
  生徒がわんさか集まり、ざわざわしている。廊下が狭い。
「そうだな」
  森山もけっこう頭がいいらしい。200人中の20人に毎回入っているらしいから。
  ・・・・・・そして、貼り出された。
「やったー、9番!!」
  森山が踊りだした。お花見かよ・・・・・・。
「なあ、啓一。オレ、自分で見るの怖いからさ、お前見てくれないか?」
「?、いいけど」
  まあ、怖いわけでもないが、言ってみただけだ。
「お前は・・・・・・」
  どうせ1番なんだろ?
「惜しいな、2番だ」
  マジ・・・・・・ですか?
「1番は誰なんだ?」
  あまりにもショックで、順位表を見る気にもなれない。点数なんかどうでもいい。
「竹村だ。ああ、あいつはいつも一番だからな」
  竹村?知らないヤツだ。
「しかも498点だ」
  おいおい、一体、どこで間違えたんだ?そいつはよ!!
「・・・・・・そうか」
  とにかく、しょんぼりしてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫」と無理に笑みをつくった。本当は大丈夫なんかじゃあない。
「にゃはー、疲れたにゃー」
  なつみがやってきた。かまってやる気力もない。森山は「お前、頑張ったな」などと話していた。2人が楽しそうに話している所が悔しく思えた。何でだろう?
「イノキ、2番、おめでとにゃー」
  うれしくないにゃー。

  数日が経ち、オレもだいぶ立ち直ることが出来た。
「にゃー、イノキぃぃ」
「ああ?ってお前!!」
  なつみが泣いていた。泣いているのを見るのは初めてだ。
「一体、どうしたんだよ?!」
「ニャンニャンが・・・・・・、ニャンニャンが、死んじゃったにょ・・・・・・」
  泣き続けている。おい、やめてくれ。教室中のみんながこっちを見てる・・・・・・。
「広樹、お前、何かしたのか?!」
  森山がやってきた。誤解だ!!
「いや、なつみの『ニャンニャン』が死んだそうだ」
「え、ニャンニャンってあの猫ちゃんが?俺、もう一度見たかったのに・・・・・・」
  森山も泣き出した。おい!!
  どうやら、森山の声が聞こえたらしく、教室中のみんなが「そんな・・・・・・」や「マジかよ」と泣き出してしまった。おーい!!

とにかくオレは泣いている森山となつみの手を引っ張り、教材室に入った。
「啓一、泣くな!!男だろ!!」
「ごめん・・・・・・」
「なつみ、そんなに大切な猫だったのか?」
「ニャンニャンとは、将来結婚するって誓ったにゃん」
  おいおい、大丈夫かよ・・・・・・。
「俺、トイレ行ってくるわ」
  森山が教材室から出ていった。
「なつみ・・・・・・」
  見ているだけでかわいそうだった。泣いているなつみの近くにしゃがみこみ、頭を優しくなでてやった。猫でもなでてやるかのように。
「あり・・・・・・がとう」
  その時、オレは初めてヤツの日本語を聞いた。

  次の日。
「イノキ、おはよう!!」
「だから、イノキって言うな!!・・・・・・ってあれ?」
  日本語だ・・・・・・。
「あたしね、ニャンニャンの事は心の奥にしまっておく事にしたんだ。思い出すと、また泣いてしまうからさ。猫語をしゃべっている時も・・・・・・」
  いや、あれは宇宙語だと思うぞ。
「おはよう、なつみと広樹」
「あ、啓一。おはよう」
「森山、おはよう!!」
「あれ?なつみ、話し方変わったな」
  どうやら、森山も気づいたらしい。
「うん。猫語はやめたんだ」
「へえ、おーいみんな!!なつみが猫語やめたんだって」
  森山が叫んだ。
「ええ、やめたの?!」
「猫語講座を開いてもらおうと思ったのに・・・・・・」
「でも、なつみカワイーからサイコー!!」
  猫語講座ってオイ!!
「えへへ。うれしいな」

  ある日の事。
オレは、次の期末テストに向けて、いつもより早く勉強を始めることにした。そうだな、図書館が静かでいいかな。
市立図書館へ行く事にした。きっと、知っている人はいないだろう。秘密の猛勉強だ!!
「うわ、あったけー」
  どこの席にしようかな?お、あそこがいいかも。あの机に一人しか使ってないし。
  よっこらせっ。はあ、参考書が多すぎて重い・・・・・・。うわ、横の席の人、オレより参考書が多いし。きっとガリ勉なんだろうな。しかも、寝てやがる。
  勉強を始めた。
「はあ、疲れた」
  おい、横のヤツ、まだ寝てやがる。ノートをひらいたままで、シャーペンを左手に握ったまま(多分、左利きだ)、顔がノートにうずもれている。
  ―――起こしてやるか。
「あのーすみません、あなた、眠っちゃってますよ・・・・・・」
  今気づいた。寝ているのは男だと思っていたら女だった。黒いコートと髪の毛を後ろで1つに束ねているせいでわからなかった」
「ん・・・・・・」
「おはようございまーす」
「あ、起こしてくださってありがとうございます・・・・・・あ!!イノキ!!」
  自分を疑った。そこにいたのはなつみだった。学校とではまるで違う、地味な格好だった。髪型だって学校ではポニーテールなのに今はただの1つしばり。
「お前、どうしてここに・・・・・・?!」
「へ?勉強だよ」
  近くにある教科書を見つけた。
名前『竹村 なつみ』
「え、た、竹村って・・・・・・」
  あのトップの?!
「あたしだけど?」
「どうして言ってくれなかったんだ!!」
「え?知らなかったの?」
「だって、先生ですら『なつみ』ってよんでいるじゃねえか・・・・・・」
  ・・・・・・こいつが、1番・・・・・・!!
「まあまあ、せっかくだし、勉強しようよ」
「・・・・・・ああ、そうだな」
  いまだに頭の整理がつかない。ありえない。こいつが、今横にいる宇宙人が今まで1番だったのか?!

「ねえ、イノキ」
「ん?」
  帰り道の事だった。外は少し寒かった。秋の寒さだな。
「イノキはあたしの事、馬鹿だって思っているでしょ?」
「ああ、思っている」
  否定しようが無い。だが、今は違うとは、照れくさくて言えなかった。
「誰にも言わないからさ、イノキは1日に何時間勉強してるの?」
「ああ、大体平日で5時間、テスト前の平日は8時間かな。あ、学校の時間は入ってないぞ」
「へえ、すごいね」
  お前に言われるとムカつく。
「お前はいいよな、天才だから」
「あ、ひどい!!」
「お前は、オレみたいに努力してるのか?」
「もちろん。イノキ、本当にデキル人間なんていないんだよ。イノキはこんな言葉知ってる?『上には上がいる』って。イノキが8時間なら、あたしはそれよりも多い12時間してるからね。まあ、平日はイノキぐらいかな。倒れるのだってしょっちゅう」
「おい、大丈夫かよ?!」
「まあね。1年半ほど前からずっとこんな生活だから」
  今までただの宇宙人だと思っていたなつみが、こんなにすごいヤツとは思わなかった。
「ああ、寒いな・・・・・・」
「はい、かしてあげる」
  そう言って、首に赤いマフラーをかけてくれた。
「前もだったよね、教室前でさ。イノキって寒がりか冷え性?」
「それ、よくみんなに言われるんだけど・・・・・・」
「へえ」
  周りがだいぶ暗くなってきた。
「あ、あたし、この角で曲がらないといけないんだよ。じゃあ、ここまでだね。イノキの家ってまだかかるの?」
「ああ、少しな」
「それなら、マフラー、使ってていいよ」
「・・・・・・ありがとう」
「じゃあね。また明日」
「ああ」
  なつみと別れたら、急に寂しくなった。竹村なつみ、か・・・・・・。隣の席の名字すら知らなかったなんて・・・・・・。
  手袋を持ってこればよかった。手が寒い。いつの間にかオレは、ポケットに手を突っ込んでいた。
「さぶっ・・・・・・ぐはっ!!」
  こけてしまった。手がポケットにひっかかってとっさに出すことが出来なかったせいで、顔から派手にこけてしまった。不幸中の幸いで周りに人が居なかった事だけがせめてもの救いだった。それより、痛い・・・・・・。
『あごがかち割れちゃったにょ』
  こんな時にそんな言葉を思い出した。どうやらこれくらいの痛みならかち割れてはないだろう。
『手が寒いときはこうするんだにょ・・・・・・ハー、ハーって』
  そういえば、あいつ、あんな事言っていたな。オレは、なつみが教えてくれたようにして、自分の手を温めた。

「おはよう、イノキ!!」
「・・・・・・だからイノキじゃないって」
「はい、これ」
  なつみが差し出してきたのは、うさぎのぬいぐるみだった。どうやらお手製らしく、顔がブサイクだ。でも、明らかに上手だ。
「おいおい、ガキかよ・・・・・・」
「この中にね、カイロが入っているんだよ。ほら、背中にチャックがついているから繰り返し使えるでしょ?名前は『うーしゃー』っていうの」
「いや、名前なんかどうでもいい」
  何なんだ、そのお前のネーミングセンスは・・・・・・。
「イノキは寒がりだからこれ、あげる」
「あ、ありがとう」
  とてもうれしかった。まあ、ブサイクなうさぎさんだけどな。
「このマフラー、ありがとうな。あったかかった」
「どういたしまして」
「へえ、可愛い人形もらってるじゃん」
「あ、啓一、おはよう」
「森山、おはよう!!」
「よく見ると、このうさぎブサイクだな」
  オレが言えなかった事をあっさりと言いやがった。おい、相手は女子だぞ!!
「ひどい・・・・・・、イノキは『お前くらいに可愛いな』って言ってくれたのに・・・・・・」
「おいコラ、ちょっと待て!!いつ、そんな事言った?!」
「まあまあ」と、森山が止めに入る。「もう先生が来るよ」
  3人は席についた。
  オレは正直、本当にうれしかった。手があったかくなった事ではない。なつみからもらったことがうれしかった。上着のポケットの中にしまった。
「みなさんおはよう。今日は、テストの範囲表を配るぞ」
  やっときたか。

  それから数日後。だいぶ期末テストが近くなってきた。
「おーい、広樹、おはよう!!」
  森山がやって来た。森山と校門前で会うのは珍しい。
「お、啓一、おはよう」
「おいおい、あそこにいるのはなつみじゃねえか?」
「あ、本当だな」
  なつみの後ろ姿が見える。
「『いっせーのーで』で、驚かそうぜ」
「いいよ」
「よし、いっせーのーで!!」
  オレ達はなつみのもとへ走った・・・・・・が、急に止まった。
「・・・・・・マジかよ」
  なつみはその場で倒れたのだ。周りにいる生徒の動きが止まった。
「おい!!なつみ!!」
  オレ達はなつみのところへ走った。
「あ・・・・・・イノキ、と森山・・・・・・」
「大丈夫か?!」と森山は聞いた。
「ごめ・・・・・・、立てないかも。イノキ、お姫様だっこして」
  嫌だ。
「啓一、近くにある担架を持ってきてくれ」
「お、おう」
  そして、なんとか保健室へ連れて行った。
「あー、この子、かなりの肉体疲労だね。前回のテスト前は倒れなかったから安心してたのにねぇ」
「え、こんな時がよくあるんですか?」
「まあな」と森山が答えた。
  なつみはぐっすり眠っている。
「あんた達は早く教室へ行きなさい。この子は体力が回復したらそっちに行かせるから」
「はい」と言ってオレ達は保健室を出た。
『倒れるのだってしょっちゅう』
  ふとそんな言葉を思い出した。
「なあ啓一、アイツってもともと頭が良かったのか?」
「いや、ここだけの話だけどよ、なつみ、昔はめっちゃ頭悪かったらしいぜ。俺はなつみとは小学校が違ったからよ、あんまり知らねーけどな。テストも点数が1ケタだったらしいぜ。しかも、昔はスゲーまじめちゃんだったって・・・・・・」
「へえ」
  そうか、アイツは努力家だったのか・・・・・・。
  キーンコーンカーンコーン
「ヤベっ!!チャイムが鳴ったぞ」
「急げ!!」

「聞いたぞ。お前、努力家だったんだな」
「えへへ、まあね」
「お昼休みだ。この中にお前の弁当が入ってるのか?」
「うん」
「・・・・・・これだな。うわ、デカ!!こんなに食うのか?!」
「いつもならそうだけど、今日は少しでいい」
「そうだな」
  普通なら「ちゃんと食わないとだめだぞ」と言うのが当たり前だが、この量はさすがにヤバイ。オレでも食えねえよ。
  森山が保健室にやって来た。
「ちわーっす!!」
「おお、来たか」
  3人は黙々と食べた。
  しばらくして、森山が言い出した。
「なあ、なつみ、お前はどうしてそんなに頑張るんだ?」
  あ、それ、オレも聞きたい。
「じゃあ、他の人には秘密にする?」
「する」と2人で言った。
「あたしね、昔、バカだったんだ」
「・・・・・・」
「小学生のときね、いつもお父さんに勉強を教えてもらってたの。それでも勉強が出来なくて、一生懸命に教えてくれるお父さんがかわいそうだった。そしてね、ある日お父さんが『楽しく読めるような本を買ってくるね』って言って、自転車で出かけていったの」
「優しいお父さんだな」
「そしたら、その帰りにお父さんがダンプカーにはねられたっていう連絡を聞いて、あたしはお母さんに連れられて病院へ行ったの。行くと、血まみれのお父さんがあたしにこう言ったの」
『お父さんはさ、なつみが将来ちゃんと生きていけるか心配なんだよ。安心して死ねないんだよ・・・・・・』
「お父さんは泣いていたの。安心して死ねないって・・・・・・。でも、お父さんは死んじゃった。だからあたしはね、お父さんが天国で安心できるように、猛勉強をしたの。つらい時が何度もあった。でも、お父さんを安心させてあげるんだ、親孝行をするんだ、って考えると頑張れた。あたし、これからも頑張るんだ」
「へえ、いい話だな」
「あ、そこのバック取ってくれる?その時に買ってくれた本があるの。絵本なんだけど・・・・・・そう、それそれ」
  題名『おおきなうんち、ちいさなうんこ』
「あたし、これをお守りがわりに持ち歩いてるんだ」
  オレはわかった。こいつに流れている宇宙人の血は、お父さんゆずりなんだ。大体、小学生にこんな本を読ませるか?しかも、そんな本を持ち歩いている中学生も変わっている。もしも荷物検査とかがあって、先生に見つかったらどうするんだ?『・・・・・・これは何ですか?』
『あたしの父の形見です』
  即、精神科に連れて行かれるだろう。
「広樹、大変だ。宿題の漢字練習、してないだろ?」
「あ、そうだった。ごめんなつみ、行かなくちゃ」
「うん。またね」
  オレ達は保健室を出るとびっくりした。女子が10人くらい廊下で待っていた。
「岡田君、もう入っていいの?」
「ああ、いいけど静かにしろよ」
  女子達は「はーい」と言って保健室へ入っていった。中から「なっちゃん、大丈夫?」と声が聞こえた。
  しばらく廊下を歩いていると森山が言った。
「・・・・・・さすが親子だな」
「ああ」
  どうやら森山もわかっていたらしい。

  次の日にはなつみは元気になっていた。

  そして、テスト当日。
「イノキ、勝負だ!!」
「ああ、いいけどお前、大丈夫か?」
「1回倒れたからってなめないでよ!!」
「はいはい」
「あ、俺はお前らとは比べ物にならないから応援だけしてやるよ」
「森山、弱気だな。それでも男か!!」
「ゴメン、男だけどパス」
「なんだと?!」
「なつみ、それくらいにしてやれよ」
「全員席につけー」
  先生がやってきた。いよいよだ。
「いい?あたしは負けないから!!」
「どうかな?オレも本気だぜ」
  オレは、もし、テストでなつみに勝つことが出来たら、オレの気持ちを伝えたいと思う。何としてでも勝ちたい。

「・・・・・・それでは、テストを始めてください」

  ―――なつみは、どんな顔をするかな?


                                おわり

このページの一番上へ

感想を書く

ホーム戻る