この星に願えるなら |
斗波作 |
学校から少し離れた場所に総合病院がある。その前には休日にはたくさんの人が集まる大きな公園があった。 因みに今は平日の昼前で学校帰りの学生は居なく聞こえてくるのは風の音くらいでわりと静かだ。 なんでこんな時間にそんな場所に俺、滝久が居たかって言うと、 もちろん授業をふけてきたわけで・・・・ 学校に居ても毎日同じようなことの繰り返しで、別に友達関係が嫌とか、勉強が嫌とか…そういうのじゃなくて・・・・ ぶっちゃけ生きてることがめんどくさい。 そんなことを思いながら最近はこの公園で無意味な時間を過ごすことが多かった。 あの日から・・・・・ 「風邪・・・・ひいちゃいますよ?」 「!?」 いきなり見知らぬ人に話し掛けられ俺は飛び起きた、 そこには灰色のコートをきた長い髪の女の子が1人。 「俺・・・・寝てた?」 「寝てましたね」 「どれくらい?」 「私は今来たばかりなのでわからないです」 「そうか」 「そうです」 「……」 「……」 沈黙のあとここでやっと一番最初に聞くべきだったことを尋ねた。 「お前、誰?」 「あ、申し遅れました。私、高原 瑠衣っていいます」 「ふ〜ん。で、なんか用なわけ?」 「用っていうか…私と同じ学校、常桜高校の制服を着ていたので、ちょっと」 「じゃあ。今私服着てるってことはサボりなわけ?」 「さぼりじゃないですよ。学校にいってないんです、 私 あそこの病院にずっと入院してますから」 高原はそう言って病院を指差した。 「ふ〜ん。」 他人のことには興味がない。適当な返事を返して会話を流した。時計を見るともう1時はとっくに過ぎている。 そろそろ学校に戻っとくか・・・・・ 「ぁ・・・」 高原を無視して俺は学校へと戻っていった。 ―翌日― 俺はいつものように公園の芝生の上に横になっていた。 何もするわけではなくただ時間が過ぎるのを待っている。 本当なら学校へ居る時間だ… ・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・。 「また寝てるんですか?」 聞き覚えのある声に起こされた。 「何?」 「あ、起こしちゃいましたか?ごめんなさい」 「べつに」 「そうですか、よかった」 「・・・・・・・」 「ここ好きなんですか?」 高原は微笑みながら俺に問いかける。そんな高原にもかかわらず俺はいつものごとく適当に返事を返す。 「べつに」 「学校は行かなくていいんですか?」 「よくないだろうな、普通に考えて」 「え、じゃあなんで行かないんですか・・・・・?」 高原は俺の顔を覗き込みながら訪ねた。 それに対して視線をそらして答える。 「べつに」 「・・・おもしろい・・・・くすっ」 「何がおもしろい?」 「だって、さっきから同じようなことばっかり言ってますから」 「・・・・・悪かったな、ワンパターンな奴で」 制服についた草をはらいながら学校へ向かおうとする。 「待って」 「何?」 「名前・・・・まだ聞いてないです」 「聞いてどうする?」 「友達になりたいです」 「なってどうする?」 「えっと・・・・」 会話が一瞬途切れる、でもすぐに高原は話をつづけた。 「友達になって、毎日ここでその日に会った出来事や楽しいことを話し合ったりしたいじゃないですか」 「べつに」 「私はしたいんです」 高原はちょっと頬を膨らませながら俺を見ていた。 「勝手にすれば?」 「勝手にします。って、名まぇ・・・・」 「宮間 滝久」 「あ・・・」 「もぅ行ってもいいのか?」 「はい、ありがとうございました。えっと・・・」 じっと俺を見つめる高原。 「何?」 「あ、いや、あのぉ・・・・」 「用がないなら俺もぅ行きたいんだけど」 「ご、ごめんなさい、なんて呼んだらいいのかな?って」 「好きに呼べば?」 「・・・・・宮間・・・・さん?」 「何?」 「滝久・・・・さん?」 「何?」 「宮間・・・君?」 「何?」 「・・・・・・宮っち?」 「何?」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「あ〜もぅ〜なんでみんな同じ反応なんですかぁ〜?」 「別に」 「・・・本当におもしろい人ですね、滝久さん♪」 「じゃ」 それ以上会話をはずませないように俺はその場を立ち去った。いったい高原は何がしたいのか俺にはまったくわからない。 何であんなに俺に話し掛けてくるのか、 何であんなにいつも笑っていられるのか。 何であんなに・・・・・ ・・・・・・・ そういえば俺、あいつのことほとんど何にもしらねぇや・・・・ 何年生なんだろう、とか なんでずっと入院してるのか、とか そのほかにもいろいろ・・・・ <友達になりたい・・・・・>か 俺なんかと友達になってどうすんだか・・・・・・ ま、俺の知ったこっちゃないけど。 公園を出て学校へ向かう。 腕時計を見るとちょうど昼ごろ12時5分だった。学校の校舎が見えるとどうも行く気がうせる、そんな気持ちで重い足取りを運びながら教室へ行った。 「あ、滝久帰ってきた〜」 クラスの友達、塚野辺 太一が俺に気付き話し掛けてくる。 「お前最近午前居ないよな、どこいってんだよ?」 「べつに」 「べつにって、まぁ聞き出すつもりはないけどよ。俺ら来年受験生なわけだし、授業でておいたほうがいいんじゃねぇの?」 「・・・・・そうかもな」 「かもなって・・・お前なぁ〜。卒業できなかったらどうすんの?俺嫌だぜ?お前が後輩になんの」 少しふざけた感じに太一は言った。 「なんのために高校なんか来てんだろうな・・・俺」 とっさに俺はこんなことをつぶやいてみる。 「ん?」 「いや・・・・」 「なんだよ?」 「べつに」 「ま、いいけどさぁ〜。ちなみに次の授業移動だかんな、一緒に行こうぜ」 「めんどくせぇな・・・・帰る」 「おいおい。今来たばっかで今日なんにも授業でてねぇじゃん」 「気にしない、帰る」 「はぁ、わかったよ。あんま休みすぎんなよ?」 「・・・・じゃ」 そうして俺は来たばかりなのに学校を後にした。 通学路からは公園の近くにある病院の「総合病院」という大きな看板が見える。無意識のうちに俺は公園へと向かっていた。 何で俺来てんだろうな・・・・・ ばかばかしい・・・・ 「ん?」 噴水の前にあるベンチに高原の姿を見つける。高原はこちらに気付いたらしく俺をみて微笑む。 自然と高原の方へ歩き出す。 「学校行ったんじゃないんですか?」 「行った」 「じゃあなんでまたここにいるんですか?」 「めんどうだから帰ってきた」 「それでまた私に会いに来てくれたんですか?なんて」 「どうだろな」 「あはは、そうじゃなくても嬉しいです。滝久さんに会えたから♪」 高原は本当に楽しそうだった。 そういえば1人で何してたんだ? 高原の手にはスケッチブックと鉛筆が握られている。 「景色でも描いてたのか?」 そう俺は問いかけてみた。 「あ、いえ。景色ではないです」 スケッチブックを覗き込む。 そこには自然に囲まれたかわいげな動物たちが描かれていた。 「冬って感じじゃないな」 「え?あ、そうですね。でも私はべつに風景を描いているわけではないですから」 「そうだな・・・・。それ、少し中見てもいいか?」 そういって高原の持っていたスケッチブックを指差す 「あ、はい。どうぞ」 「さんきゅ」 軽く自分なりに礼を言って高原からスケッチブックを受け取る。 1ページ目 さきほどと同じような動物たちが描かれている。緑の自然に囲まれみんなで楽しそうに遊んでいる、という感じだ。 2ページ目 やはり次も前のと同じで動物が描かれている。よほど自然が好きなのだろう、このページも緑でいっぱいだった。 ぱらぱらと一通り流してみる。描かれているものはみんな自然と動物だった。 「ん?」 最後の方になにか雰囲気の違う絵をみつけた。 「絵本・・・・になってるのか?」 続きを見ようとした瞬間、高原の様子が少し変わった。 「あ…それは」 「何?」 「え、あ、いや・・・・・」 ページをめくる。 「わ!わわわわわ」 「何?」 「何でもないですけど…その、あの」 「じゃあいいじゃん」 スケッチブックに視線を戻す。 「やっぱだめぇ〜!!」 俺の手からスケッチブックがものすごい勢いで奪われる。 「そんなに焦らなくてもいいんじゃ・・・・」 「よくないです〜」 高原は恥ずかしそうにスケッチブックを抱きかかえる。 「ま、無理に見ようとは思わないけどよ」 「ぁ…ごめんなさい」 「べつに・・・・誤ることねぇよ」 「……優しいんですね」 「誰が?」 「滝久さんが」 「どこが?」 「ぜ…全部?」 「なぜ疑問系?」 「え、あ…なんででしょう?」 混乱する高原に俺は一言 「お前かわってんな」 「え?」 「いや・・・・だから、かわっているな、と」 「そっそんなことないですよ〜滝久さんのほうが……」 「ほうが…?」 「な…なんでもないです」 何かを言いかけそこで会話が少し止まった。おそらく俺のほうがかわってるとでもいいたかったのだろう。 「座らないんですか?」 「何が?」 「さっきから立ったままです。となり空いてます」 「・・・・じゃぁ」 高原のとなりの空いているベンチに座る。 いつもならノイズにしか聞こえない噴水の水の音が今はそんなにも気にならなかった。 「あのぉ」 「なぁ」 2人の声が同時にでた。 「はい?」 「何?」 「あ、そっちからどうぞ」 「お前から言えよ」 「え、あ、はい・・・・滝久さんは常桜高校の何年生なんですか?」 「2年」 「あ」 「何?」 「え、いや・・・・・やっぱり先輩だったんですね」 高原は笑いながらそう言う。 「悪かったな、先輩にみえなくて」 「わ、そんなこと言ってないですよぉ」 「俺にはそう聞こえんたんだがな・・・」 「もぅ・・・・・そっちの番ですよ」 「あぁ・・・・もぅいいや」 「なんでですかぁ〜気になるじゃないですか〜」 「俺は気にならない」 「そんなぁ〜」 「なんてな、なんか思ったんだけどさ俺お前のことほとんど何にも知らないんだよな。」 「え?だって私たち会ってからそんなたってないですし」 少し驚く高原、気にせず俺は話を進めた。 「そうじゃなくてさ……いや、いいや」 「何で〜何でですかぁ〜」 「今日は帰る」 「え〜……わかりました」 高原は残念そうな顔をする。 「じゃな」 「はい……明日もまた…いや、さようなら」 いつも通りに高原と別れる。 …いつも通り? 俺たちそんなに会ってたっけ? そういや、また聞かなかったな…入院してることについて 聞かない方がいいのか? でも気になる…… 気になる… 気になる…? 他人のことなんて興味なかったのに… ましてやあの高原のことなんて――――… … ……… 「早く帰って寝るか…」 家につくと俺はすぐにベットに横になった。おそらくこのまま明日まで起きることはないだろう。 ―翌朝― カーテンの隙間から日差しが差し込んでいた、時計を見ると12時を過ぎている。 いつもなら起こしに来る母親も今日は来てないようだ。 …って今日休日か。 いつもの事ながら休みだからといって何もやることなどない。 「あいつは・・・・」 ふいに高原のことを思いだす。 「・・・・行ってみるか」 自然と俺はいつもの公園に向かっていた。 …なんで公園に向かってんだ? …アイツに会うためか? 「何やってんだかな…俺」 公園につくといつもの場所へ向かう。 噴水の前 そこにはやっぱり高原の姿があった。さすがは休日、という感じに大勢の人でにぎわっていた 「あ!」 こちらに気付き大きくてを振る 「今日も来てくれたんですか?」 「べつに…なんとなくきただけだ」 「それでもいい♪会えて嬉しいですよ〜」 「ふ〜ん」 「となり空いてますよ、どうぞ」 そう言って高原は空いているベンチに手を置く。 「ん?あぁ…また何か描いてたのか?」 高原の持っているスケッチブックが目につき俺は尋ねる。 「はい、絵を描くのが好きなので」 本当に絵を描くのが好きなのだろう…なんとなく高原の笑顔からそう感じられる。 「なぁ聞きたいんだけどさ」 無意識のうちに俺はそんなことを口にしていた。 「はい?」 「何でお前はそんなに笑っていられる?」 「…?」 何いってんだ?俺・・・・ 「・・・いや、なんでもない」 今の言葉をなかったことにする。しかし帰ってきたのは意外な答えだった。 「・・・・残された時間を・・・楽しみたいんです」 「え?」 それは聞いてはいけなかった言葉のような気がした。 「まだ、滝久さんに話してませんでしたね」 それでも高原は話を続けた。 「私は小さいころからあまり体が丈夫なほうではなくて、学校なんかも結構休みがちだったんですよ」 俺はだまって話を聞く事にした。 「そしてある日・・・中学生のころですね、急に原因不明の発作がおきて病院に運ばれた事があるんです。でも検査からは何もわからなくて、とりあえずその日は薬をもらって帰ったんです・・・・・・」 ここで1度話が途切れた。 「大丈夫か?」 少し心配になり高原の顔を覗き込む。 「あ、大丈夫です。続けますね」 「あぁ」 「それからしばらく発作はありませんでした。なので高校も無事今の常桜高校に決まりました。卒業式が終わり、そして入学式、これから新しい生活が始まるんだってわくわくしてたんですけど・・・・入学してすぐ、また・・・発作はおきてしまったんです。それも前回とは異なるものでした、今度こそこのまま死んじゃうんじゃないかってくらい辛くて・・・」 休日でたくさんの人でにぎわっているハズなのに、この2人の空間には冷たい風の音と噴水の水の音だけしかしなかった。 高原は辛そうに話を続けようとしている。それでも俺は黙って話を聞いていた。 「そこで、お医者さんに言われたことは・・・・・“あと1年・・・・持たないかもしれない”」 「たか…はら…」 今俺はここで高原を抱いてやることぐらいできたかもしれない。 でも俺にはできなかった。 「でも、そこで私の人生が限られてしまったわけではないです。」 高原はまだ…… 「“1年持たないかもしれない”といっただけで完全に“持たない”と言った訳ではないですから」 諦めてはいなかったから。 「そこで私は決めたんです。絵本作家になろう…って」 いつ死ぬかもわからないのに高原は夢を捨ててはいなかった。 「私みたいな同じ苦しみを持った子たちに夢をあたえてあげたいんです」 高原は優しく微笑む。そんな高原を見ていると自分が申し訳なく思えてくる。 こんなに必死に生きようとしているのに、学校へ行きたくても行けないのに… 俺は… 「見ますか?」 ふいに高原はそう言うと、スケッチブックを俺に差し出してきた。 「昨日の…絵本です」 「いいのか?昨日は見せてくれなかったのに」 こくん。 高原は無言でうなずいた。 「じゃあ・・・・」 スケッチブックを受け取る。 ページを捲ると1匹の子うさぎの絵がかかれていた。紙の大きさに対してその子うさぎはまんなかにポツリと描かれている。 <どこに行ったの?> 子うさぎは誰かを必死に探していた。 <返事して?昨日みたいに僕に笑いかけて?> 探している人は見つからない 昨日まで一緒だった母親は見つからない。 <僕を置いてどこに行っちゃったの?> 探しても見つかるはずなんてないのに それでも必死に探しつづけた。 <ん?> 気付くと後ろには数匹のうさぎたちがいた。 <ねぇ僕のお母さんはどこに居るの?> 子うさぎは尋ねる。 <君のお母さんはもうここには居ないよ> 目からは大粒の涙が溢れている。 <それは嘘だよ。ずっと一緒にいるって言ったんだもん> 嘘だと思いたいのに涙は止まらない。 <一緒だよ> 他のうさぎたちはそう言うと星空を指差した。 <一緒?> 子うさぎは聞き返す。 <うん。一緒、あの星空からずっと君のことを見てるよ> 子うさぎに優しく言い聞かせる。 <うん。一緒> 気付くと涙は止まっていて子うさぎの顔からは笑顔があふれていた。 <もう泣かなくていいよ> 母親のような優しい笑顔。 <みんな一緒だから、ずっと・・・> スケッチブックを閉じる。 悲しげだけどどこか暖かさを感じる絵本。 すごいと思う… 高原はまったくあきらめというものを見せていない。 生きようと、生きてやろうと… 今はただ、それしか考えていないと思う。生きて、同じ苦しみの人に夢を持ってもらおうと。 「どう…ですか?」 少し不安げに俺に感想を求めてくる。 「どうって…すごいと思う悲しげで……でもどこか暖かさがあって」 「よかった…」 高原はいつもの笑顔を見せる。 「滝久さんは…本当に優しい人です」 いきなり俺に向かってそう言う。 「俺のどこが優しいんだ?」 「自分で気付いてないんですよ、だってさっきから私が話しをしている時本当に心配そうに私のこと見ててくれましたし」 「気のせいだろ?」 「あはは、照れてるんですか?」 「照れてない」 「顔が赤いです」 「赤くない」 「おもしろい人ですね。あなたに話し掛けて本当によかったって思います」 少し改まって高原は言った。 「そういやぁさ、なんで俺に話し掛けたんだ?…俺なんかに」 これはずっと聞きたかったことだ。 「つまらなそうだったから…かな?」 「つまらなそう?」 「はい、なんか生きているのがつまらなそうだったから」 少しおかしそうに言う。 「まったく…お前にはなんでもお見通しか?」 優しい笑顔を高原に向ける。 「お見通しです……なんて、でも今は違いますね」 「なにが?」 「出会ったころとだいぶ違います。といっても会ってからそんなに日はたっていませんが」 「俺も・・・正直自分が違うと思ってる、変わったと思ってる、お前と出会ってから」 「ぁ……」 高原は少し恥ずかしそうにうつむいた。 「今日は…ありがとな」 「え?」 「いや…いろいろ、話してくれて」 「そんな…私がただ…話したかっただけなのかもしれませんし…あ」 高原は何かを思い出したらしい 「どうかしたか?」 「そろそろ部屋に戻らないと…」 「そうか、またな」 「はい!それでは」 高原と別れる。 今日は来てよかったな… 俺は心からそう思った。 ―平日の朝― 久しぶりにちゃんと学校へ行こうという気になった。いつもの通学路で学校へ向かう。 授業中… まともに授業を受けていても内容が頭に入らない。 「……」 高原の事が気になる。 (…俺、重症だな) 心の中でそう思った 最初から最後までちゃんと授業を受けたのは久々だった。そのせいか6時間の授業はかなり長く感じた。 太一を含む友達はみんな驚いていた。 すべての授業が終わり、俺の行く先は決まっていた。 なんとなく・・・・とかじゃくて 自ら行きたいと思った。 俺は少しはや歩きめに公園に向かった。 そしていつもの噴水の前―― そこに高原の姿はなかった。 「あれ?」 いつもはそこにいるはずなのに今日は居なかった… 俺は芝生で居眠りをしながら高原が来るのを待つことにした。 きっとまたアイツは俺を起こしに来るだろう。 始めてあった時のように 優しい声で 起こしに来るだろう・・・・ ・・・・・・・ ・・・ 「風邪・・・ひきますよ?」 聞きなれた声に俺は起こされた。 「ん・・・・・」 そこにはいつもの灰色のコートを着た高原が立っていた。 空にはもう星がちらほら見えている。 「ずっと・・・寝てたんですか?」 「・・・・そうみたいだな」 「今日はいつもの時間に居なかったんだな」 「ぁ・・・はい」 高原の表情からして何かあったんだと俺は思った。それ以上は何も聞かない事にする。 「今日さ、ちゃんと学校行ったんだよ」 俺は話題を変えようとする。 「え?本当ですか」 「あぁ、授業内容なんかなんも頭はいってねぇけどな」 「あはは、それじゃぁ意味ないじゃないですか」 クスクスと笑いながら高原は言った。 「そうだな」 一緒になって俺も笑う。 「となり・・・座ってもいいですか?」 「ん?ああ、構わないけどなんならベンチに移動するか?」 「あ、いやここでいいです」 「そうか」 まだ5時半だというのに辺りはすっかり真っ暗で、数ヶ所にある街灯のあかりが公園全体を照らしていた。 「星・・・きれいですね」 空を見上げながら高原はそうつぶやいた。 「あぁ、そうだな」 「星は、生命の数と同じくらいたくさんあるそうです」 「少ないようで・・・・結構多いいもんだな」 「そうですね、多いいです。ものすごく・・・」 少しの間黙って空を見続ける。 今までこんなにちゃんと空を見たことがあっただろうか・・・ 空って本当に広いんだな・・・ 星ってこんなにきれいで、こんなにたくさんあったんだな・・・ 「知ってますか?」 そう高原は言い出した。 「なにが?」 「流れ星が流れる瞬間に2人で同じ願い事をすると、その願いは必ず叶うっていう」 「知らないな・・・・」 「あはは、でもよくある話ですよね」 「かもな」 「はい・・・よくある、迷信ですよ・・・・」 高原は自分の膝を抱きかかえた体勢に顔を疼くめながらそう言った。 「迷信・・・なんですけど・・・・」 「けど?」 高原の話の続きを待つ。 「信じちゃうんですよ・・・・信じて・・・いたいんですよね」 「高原・・・・」 「おかしいですよね、迷信ってわかっているのに・・・信じたいなんて。たぶん私は・・・・・夢を・・・見ていたいだけなのかもしれません」 「・・・・・・・・」 「あ、何言ってるんでしょうね。私・・・・ごめんなさい」 焦り気味で俺にそう言う。 「それじゃあ・・・そろそろ戻らないとまずいので、これで失礼しますね」 「高原・・・・」 「はい?」 「信じていて・・・・いいと思う」 「ぇ・・・・・」 「迷信かもしんないけど、絶対に叶わないわけでもないかもしれない」 「滝久・・・さん」 「それに・・・・・、それがお前の考え方だろ?」 「・・・・・はい!」 高原はこっちを向き微笑みながら明るい返事をした。 「暗いからな、病院まで送る」 「え?そんな、悪いです」 遠慮がちな高原に俺は強制的に付いていく事にした。 「じゃあ勝手に俺が付いて行く。これでいいだろ?」 「すいません・・・じゃあ、おねがいします」 「俺が勝手に付いていくんだ、礼はいらない」 「クス・・・おもしろい」 そして病院に着く。 「明日はいつもの時間に会えんのか?」 「夕方ですか?会えますね」 「そうか、じゃあ俺待ってるからいつもの噴水の前で」 「わかりました、楽しみにしてますね」 「あぁまた明日な」 そして笑顔で別れた。 ―学校― 今日も俺はちゃんと学校へ来ていた。 「お前が2日も連続で真面目に学校来るなんてめずらしいじゃん」 1時間目の授業が終わるなり太一が真っ先に俺に話し掛けてきた。 「ん?そうか?」 「そうだろ。今までずっと途中から来たり途中で抜けたりしてたんだからよ」 「そかかもな」 「これで授業中ちゃんと起きてりゃ完璧なんだけどな」 「そんな気力俺にはない」 もちろん授業にでてもまともに授業聞いているはずがないわけで・・・ すべての授業が終わり俺は公園に向かう。 「まだ・・・来てないみたいだな」 待ち合わせの噴水の近くにある芝生の上に寝そべり俺は高原を待つことにする。 寒い季節でも木の隙間からの日差しは暖かかった。 このまま寝てしまっても高原は起こしに来てくれるだろうか・・・ いつものように・・・・ <風邪・・・ひきますよ?> って・・・・ 真っ青に晴れた空を見上げながら俺はそんな事を思っていた。 もし・・・あのとき俺が高原と出会わなかったら・・・・・ 今の俺は・・・・どうしていただろう・・・・ ずっとここで昼寝して1日を過ごしていただろうか・・・・ ずっと・・・・ずっと・・・・ 同じ日常を繰り返して、つまらない人生を送っていただろうか? 高原は俺に、つまらなそうだったと言った。 でも今は違うと・・・・・・ 俺の人生は、俺の一生は、高原によって変えられたんだと思う。 高原に俺は救われたんだと思う。 生きることを苦痛に感じ、人が信じられなくなりかけていた俺に、高原は…… そこでいったん俺の意識は消えた。 『風邪…ひくよ?』 「……高原?」 高原は居なかった。 「夢…」 俺…また寝てたのか…青かった空はオレンジ色に染まっていた。 「まだ…来てないのか」 芝生に横になったまま俺は高原を待つことにした。 このままではまた寝てしまうかもしれない。そう思い俺は病院まで迎えに行く事にする。 カウンターで名前を言っただけで高原の病室はわかった。 『2014 高原瑠衣 様』 そこには確かに高原の名前が書いてある。 部屋に入って突き当たりの窓際の所に高原はいた。 「高原・・・・」 「滝久・・・さん」 高原の顔は驚いていた。 「お前・・・」 「ごめんなさい!!」 「え?」 「行くって言ったのに・・・私・・・」 「気にすんなよ・・・具合・・・・悪いんだろ?」 「でも・・・でも・・・・」 「いいって」 今にも泣きそうな高原に俺は笑いかける。 「はい・・・・」 「今日は、もう寝たほうがよくないか?」 「え、でもせっかく来てもらったのに・・・・」 「そんなこと言って、また具合悪くなったらどうすんだ?」 「…そう…ですけど・・・」 少し残念そうな顔をする高原。 「しょうがない、もぅ少し居てやるよ」 「え?本当ですか」 「あぁ」 「嬉しい…あ、滝久さん!私また新しい絵本のお話をつくっているんです」 「へぇどんな?」 「もうすぐ完成で、まだ全部終わっていないんです…明日には…完成できそうなんですけど…」 「じゃあ明日には見せてもらえるのか?」 「できれば…見せたいんですけど、完成できるようにがんばりますね。あと少しでできるので」 「おう、楽しみにしてる」 「はい!って、滝久さん…時間大丈夫ですか?」 「え?」 そう言って俺は腕時計を見る。 7時30分… 「そろそろ帰っとくわ」 「そうですよね、遅くまですみませんでした」 「気にすんなよ。明日は来れるのか?」 「えっと、いつもの場所に・・・ですか?」 「俺はべつにここに来てもいいけどな?」 「ここに・・・来てもらっても・・・・いいですか?」 「あぁかまわないぜ?」 「すいません・・・お願いします」 「了解、んじゃ明日な」 「はい」 そして俺は病室を後にした。 家に着くとまず俺は部屋に行く。 いつもより少し落ち着かない、明日になるのが待ち遠しかった。 性格には、高原に会うのが待ち遠しかったのかもしれない。 少しずつ自分でもわかっていた。俺は高原のこと……好きになっている、ということに。 ちゃんと学校へ行きだしてから3日がたつ。 「滝おはよ〜」 まっさきに挨拶してくるのはきまって太一だった。 「ん、おはよーさん」 そんな太一に俺も挨拶をかえす。 「オイ、今日1時間目から移動教室だぞ」 「めんどくせぇな・・・・」 「また帰るとか言うんじゃないだろうな?」 「帰る・・・・」 「おいおい、まぢかよ」 「いや冗談、どうせ寝て過ごすんだし移動も何も関係ないしな」 そうして俺にとって長い学校での時間は終わった。 今日はいつもの公園ではなく、高原の病室へ直行する。 「おっす」 「こんにちは、来ていただいでありがとうございます」 俺に高原は笑いかける。 「気にすんなよ」 「ぁ・・・・・はい・・・・」 「具合平気か?」 「大丈夫ですよ」 「そうか・・・よかった」 俺は心からそう思えた。 「どうですか?学校は楽しいですか?」 「なんだ?いきなり、めちゃめちゃつまらないぞ?」 「あはは、滝久さんらしいですね」 「これが俺のキャラだ」 「ですね」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 少し沈黙が続く。 最初に切り出したのは高原だった。 「今日は空が綺麗です。夜には星がたくさん見えるかもしれません・・・・」 「ん?そうだな」 「夕方になったら・・・ここの屋上へ行きませんか?」 「べつに」 「やったぁ」 高原は嬉しそうに笑う。 「そういや、絵本…できたのか?」 「あ、できましたよ」 そう言って高原はひき出しからスケッチブックを取り出し俺に渡してきた。 「見ていいんだよな?」 「もちろんです…というか、滝久さんに、見て欲しいんです」 高原からスケッチブックを受け取る。そして俺は、絵本のストリーの世界へと浸っていった。 ページを捲る。 そこにはやはり一匹のうさぎが描かれている。 <そんな所でなにをしているの?> そこにもう一匹のうさぎが話し掛ける。 <なにもしてない…時間が過ぎるのを待っているだけ> うさぎはつまらなそうな顔で返事を返す。 <友達になろう?> そうもう一匹のうさぎは言った。 「コレって・・・・」 「そのまま…最後まで見ていただけますか?」 「あ…あぁ」 俺が高原に出会った時の事がこの絵本には描かれていた。まだ全部見たわけじゃないけど、始まりの展開からしてだいたいわかった。 俺は絵本に視線を戻した。 <友達に?> うさぎは聞き返す。 <そう、友達。あなたと友達になりたい> <なってどうするの?> さらに聞き返す。 <毎日遊んだり、話をしたり…それから> 話はまんま俺たちのことだ。この話が全て完結し、終わっているのなら…俺たちのこれからの結末も描かれているのだろうか…… 少し不安になる、話の展開はもうラストへ近づいていた。 そしてラストの言葉……その言葉は… <ずっと、忘れない…> 2匹のうさぎは星空の下で寄り添いながらそうつぶやいていた。その最後の言葉を見て、俺は安心した。きっとこれからも俺たちはこの絵本のようにお互いをずっと忘れないでいけると思う。高原もそれを願ってこの絵本を描いたのだろう。 「えっと…今回のは、どうですか?」 前と同じように高原は不安な顔で俺に尋ねた。 「うん、いいよ」 「よかった…あ、そろそろ日が落ちます」 「あぁ、屋上行くか?」 「はい、行きましょう」 そう言って高原はいつものコートを着込む。 ―屋上― さすがに冬の寒い中しかも夕方にこんな屋上に来る人なんて居なくて、ここには高原と俺との2人だけの空間になっていた。屋上にはフェンスが張られその前にベンチがいくつか置いてある、という感じだった。 「ベンチ行くか?」 「あ・・・いや、ここでいいんです。」 そう言って高原は地面にそのまま座り込んだ。 「?」 「ベンチに座っちゃうと・・・フェンスが邪魔で星が・・・見えにくいんですよ」 「そうか・・・」 「はい、こうしているのが一番よく見えます」 俺も高原のとなりに寄り添うように座った。 「ここ・・・よく来るのか?」 「はい・・・この時間は・・・よく来てますね・・・」 「いつもなら公園でお前と別れたあとの時間だな」 「そうですね、いつもその後にここに来ていました・・・そして、毎日星を見ているんです」 空には1番星が見え始めた。 「流れ星を・・・・」 高原が何かを言いかける。 「ん?」 「流れ星を・・・・一緒に探してほしいんです」 「流れ星を?」 「はい、流れ星です」 「そんなこと言っても・・・必ず見つかるとはかぎらないぜ?」 「きっと・・・きっと・・見つかると思うんです!」 高原はいつもよりちょっと感じが違う気がした。 「そうだな、探してみなきゃわかんねぇもんな」 「ありがとうございます!」 高原の顔が明るくなる。 空はすっかり星空に変わっていた。 俺と高原は2人でずっと空を見上げ続けた。 「流れ星を・・・見つけたらどうするんだ?」 「それは・・・」 少し照れくさそうにうつむく高原、そして話の続き・・・ 「願ってほしいんです・・・・」 「え?願う・・・・?」 俺は聞き返す。 「なにを・・・」 「聞かないで下さい・・・・自分の思ったことを・・・願ってくだされば結構ですから・・・」 「俺の・・・思ったこと・・・・?」 「はい、滝久さんの・・思ったことです」 「・・・・わかった」 「ありがとうございます・・・・」 そのとき俺はこの前高原から聞いた話を思い出した。 『流れ星が流れる瞬間に、2人で同じ願い事をするとその願いは必ず叶う』 というものだ… もし、今高原が同じことをしようとしているのなら・・・俺の願いはもう決まっている。 「なぁ、高原」 少し改まって俺は高原に話し掛けた。高原には言っておきたかったから。 あの事を… 「なんですか?」 高原は俺に応答する。 「1月くらい前…かな。俺、彼女いたんだ」 「え?」 少し驚いた顔で高原は俺を見た。 「意外だろ?」 「え、そんなこと…」 「いいって、自分でも意外って思ってるんだし」 「はい…話、続けてもらえますか?」 「あぁそれで、そいつのこと俺、まじで好きだったんだ。本気で人好きになったのもそれが初めてだった」 「……」 高原は黙って真剣に俺の話を聞いていた。 「それで、休日はどっか遊びに行ったりとかしてたんだけど、そいつは俺と付き合ってることみんなには内緒にしてほしいって言ってたんだ」 「そんなに仲良かったのに…ですか?」 高原は俺に問いかけてきた。そんな高原に俺は無言でうなずく。 「俺も何か事情があるんだろって思ってたから何も言わなかった」 普段あまり自分の事を話さないのに、不思議とそのとき俺は高原に何の抵抗もなく自分の事を話す事が出来た。 「そいつは、そのうち俺に金を求めてくるようになった…最初は直に欲しいって言ったわけじゃなくて、母親が病気でいろいろ大変とか言って遠まわしに言ってた。俺はそいつを信じたかったから、嘘だと思っても金あげてたりしてたんだよ。でも…」 高原は大体話の予想が付いているだろう。 「そいつにはもう1人男がいて俺のあげた金はすべてそいつのために使われていた。俺は…そいつに利用されてるだけだった」 「そんな……」 高原は泣きそうな顔で俺を見る。 「それから、あんま人のこと信用できなくなって…絶対、もう人なんて好きにならないって決めてた」 「滝久さん…」 「前にも同じような事言ったけど…そんな俺を…お前は変えてくれたんだ」 「私…が」 「あぁ、お前に会わなかったらきっと…今でも毎日無意味な時間を過ごしていたと思う…アリガトな」 「あ…いえ、そんな。こちらこそ…ありがとうございます」 「なにが?」 「自分のこと、話してくれて…普段、あまり自分のこと話てくれないので…話てくれて嬉しいです。」 「ん、あぁ」 「では、私も…滝久さんにすべてお話します。話しておきたいから」 俺の話が終わり次は高原が話し出す。 「病気に関しては以前お話した通りです・・・」 「あぁ」 「まずは、私の・・・家族の事・・・」 俺は横目で高原の顔を見る。 高原は悲しそうな顔をしていた・・・今にも泣くんじゃないか、という感じに。 そして俺は視線を星空に移動させる。 「私の父は・・・私が小学2年生の時に、病気で・・・亡くなっているんです」 少し予想していた事が的中した。 「・・・・」 「絵本作家になろうって決めたのは、こんな出来事があったから、っていうのもあったかもしれません」 高原はうつむきながら話を進めた。 「なので、今は母と2人なんですが・・・今の私はこんな状態なので、母は仕事が有ったりで、たまにしか私の所に来れないんですよ」 空を見上げながら黙って聞き続ける。 「そして・・・何よりも話さなければいけない事・・・・まず・・・おとといの事ですね」 おととい・・・高原が公園に遅く来た時だ。 「あの時なぜ私が遅れたかって言うと・・・」 大体想像はできていた。 「発作が・・・起こってしまったから・・・なんです」 やっぱり・・・・俺はそう思ったがあえて話の続きを聞く。 「本当はあの時も、外出を禁止されていたんですけど・・・・滝久さんに会いたかったから・・ ・・昨日は・・・・」 昨日・・・いつもの公園で待ち続けても高原の来なかった日・・・結局その日は俺が病室まで来た・・・・ 「昨日は・・・結構気分よくて・・今日こそはちゃんと会いにいける・・・って思っていたんですけど・・・・ぎりぎりになって、やっぱり起きてしまったんです・・・・」 やはり高原は無理してたんだ・・・・無理してまで、俺なんかに会いに来ようと・・・・ 「その時に、お医者さんに聞いたんです・・・・・・・」 高原の顔色が一気に変わる・・・・ 「もう・・・・だめかも知れない・・・・・・と」 俺はその言葉に何も言ってやる事はできず、それでもまだ続きを話そうとする高原のそばに寄り添う事しかできなかった。 「この事は・・・・母は知りません・・・・私が言わないように・・お願いしたので」 きっと今高原は涙を必死にこらえて話しを続けているに違いない… 「そして……今日です」 今日…今日は高原が公園ではなく病室まで来てくれ、と言ったから俺は高原の病室までやって来た。 「今日・・・わざわざ滝久さんにここまで来ていただいたのは・・・・さきほども言いましたけど・・・流れ星を、一緒に探してほしかったから・・・・なんです」 高原・・・・・・ 「最後になるかもしれない夜を・・・・・」 高原・・・・・・・・ 「あなたと・・・・・」 「・・・・・高原!!」 気がつくと俺は思いっきり高原を抱きかかえていた。 前は抱いてあげる事なんてできなかったはずなのに・・・・・ 「滝・・・ひさ・・・さん・・・・」 「諦めんなよ!!!」 俺は思いっきり怒鳴り付けていた。 「最後なんて言うなよ!さっきのお前の絵本!あれはこれからの俺らのことじゃねえのかよ!?ずっと一緒に居られんじゃねえのかよ?」 「・・・・・・」 高原は黙って何も言わない。 「流れ星なんていくらだって探してやるよ!!」 「・・・・・・」 「お前が居たから俺は変われたんだ!お前が居なかったら俺はどうすればいい?何のために生きていきゃいい?何もだめかもしれないっつっただけでだめとは言ってねぇんだろ!!それがお前の考え方だろ!?だからっ・・・・・!」 「ありがとう・・・・・」 かすかに聞こえる程度の声で高原はそうつぶやいた。 「え?」 「自分の体だもん・・・・・私が一番よくわかってるんだよ?」 その言葉の意味がよくわからなかったが、すぐに俺は理解した。 「それって・・・・」 暗くてよくわからなかったけど、高原の目からは涙が流れているように見えた。 「あ〜ぁ…せっかく、泣かないって…決めて…たのに…な……」 俺の腕の中で小さい体をうずくめながら高原は… 泣いていた。 「さっきのは絵本だよ?絵本なんて、いくらでも空想の話が作れちゃうんだよ?あれは…こうなったらよかったな…っていう、私の希望なんだよ…実話にはならないから…せめて、絵本にしたかった…それだけです」 俺は無言のまま高原を抱きしめ続けた。 「・・・・・流れ星」 「ん?」 「流れ星を探すのが・・・・・目的・・・・ですよ?」 小さな声で高原は俺にそう問いかけた。 「・・・・・・そぅ・・・・だな」 俺と高原は星空を見上げる。 地面に座った状態で2人寄り添いながら… 俺はずっと高原を抱きしめながら… 流れ星は見つかるだろうか… そんなことを思っていた… 「滝久さん・・・・」 「ん?」 高原は俺を真っ直ぐ見つめる。 「まだ・・・言ってませんでしたけど・・・・」 ・・・・・・・・。 高原の唇が軽く俺の口に触れる。 「好きです・・・・」 それはとっくに2人ともわかっていたこと。 「・・・・・・高原・・俺も・・・」 「言わないで下さい・・・・・」 そこで止められた・・・・ 「お前は言ったんだ・・・俺にも言わせろよ」 高原は軽く微笑んだ。 いつもの笑顔・・・・ 「ずるいですね・・・・滝久さんは・・・」 「なにがだ?」 「人の気持ちも知らないで・・・・そこで今あなたが思っている言葉聞いてしまったら・・・私は安心して眠る事なんて出来ないじゃないですか」 「どういうことだ?」 「私が・・・このまま永遠の眠りについてしまってから・・・あなたが私のことだけを見つづけてしまって・・・新しい幸せを手に入れることなんて出来なくなるっていうことです」 「俺は・・・・それでかまわない」 「滝久さんらしいです・・・・でも・・・絶対に・・・私のことだけ・・・見続けないでください」 「なんで・・・なんでだ??」 「私のせいで・・・あなたが幸せになれないのなんて嫌ですから・・・・」 「でも・・・そんなのって・・・・」 「私のこと忘れろなんていいません・・・・ただ・・・あなたには幸せでいて・・・ほし・・・いんで・・・・す」 高原の様子がおかしい・・・まさか・・・ 「高原っ大丈夫か!?」 「大丈・・・夫・・・」 「苦しいのか?」 「大丈夫だからっ・・・・・」 「でも、お前っ・・・」 「空」 「そ・・・ら・・・?」 「空・・・見てて・・・・流れ星・・・・見そこなっちゃうから・・・・・」 「そんなこといってる場合じゃ・・・・」 「おねがい・・・っ」 再び高原の目から涙が出ていた。 「わかった・・・・・」 高原を思いっきり抱きしめる。 これは・・・高原のためだけではなく・・・・ 俺自身がこうしないと気がすまなかったから・・・・ 「空・・・・見ててよ・・・・」 「あぁ・・・・そうだな」 空を見上げる。 星の広がる星空を。 出来る事なら、君とこの星空をもっと見て居たかった。 でも、それは叶わぬ現実。 君と過ごす・・・ 最後の夜・・・・・ 最後の・・・・・ 「あっ」 しずかな屋上に2人の声が静かに響いた。 大きな星空に 今 たしかに小さな星が流れた。 「願い事・・・・した?」 「あぁ・・・」 「私はね・・・・・私のした・・・願い事は・・・」 今にも消えそうな声で高原が話す。 「願い・・・事は・・・・あなたのことを一生忘れませんように・・・・・・」 そう言い切った後、高原の意識は消えて行った・・・・・ 流れる星とともに・・・・ この星空に・・・・ 「高原…おやすみ…」 俺は高原をぎゅっと抱きしめる。 悲しかったけど涙は出なかった、きっとここで泣いたら高原も悲しむと思うから… あいつは俺に幸せでいて欲しいと言った。だったら俺もあいつの幸せを願ってやりたかった…でも…俺はあえてその願い事をしなかった… 高原は・・・・一生俺を忘れないだろう・・・・・・ 俺も一生おまえの事忘れない・・・・・ だって 俺のした願い事は・・・・・ 俺の願い事は・・・・・ 「高原の事、一生忘れないように」 短かった1つの小さな恋が 今・・・・ そっと幕を閉じた。 Fin 〜Don‘t forget me〜 |