ノベルる

雪の降る季節の中で 一話

リョク作
人物紹介
島根 孝広 十八歳
天津高校3年生。
煙草を吸っており、肺癌を患っている。
余命は一年と医者に言われているが、落ち込んだり
せずに、普通の日常を送っている。
小さい頃事故に逢い、生死をさまようほどの大怪我を
負ったこともある。

沢野 瀬奈 十七歳
優しく礼儀正しい女子。
孝広とは、高1の時からの友人。
高2の時に孝広が病気で倒れ、入院した時も、仲が良いから
とゆうだけで、毎日お見舞いに行っていた。
しかし、孝広に時々みせる悲しい表情がなんなのか、
いまだに知る人はいない。

師名 陽太 十八歳
孝広の親友。
軽い性格で、どんな時でも調子を崩さない。
しかし、それだけに彼は他人に自分の弱さ等
を見せようとしない人物でもある。
孝広の余命が一年とゆうことを知っている、
唯一の人物。

島根 砂夜 十六歳
天津高校1年生。
孝広の実の妹で、生徒会にも入っている真面目さん。
いつも孝広の傍にいる瀬奈に、嫉妬している。


第一話 最後の冬

「ふーっ」
俺は煙草を吸いながら、ベンチに座って雪の積もった公園
を見ている。
すると、後ろから声がした。
「煙草の吸いすぎは体にわりぃぞ、お前高校生だろ?」
俺が後ろを振り向くと、手をポケットに突っ込んで歩いてくる男の姿があった。
「……陽太」
「うっす」
俺が男の名前を呼ぶと、男は笑って返事をした。
この男の名前は「師名 陽太」俺の友人だ。
俺は前を向きながら笑って言う。
「まぁいいじゃねぇか、たぶん最後の冬だ。ゆっくり見させろよ」
何故、最後の冬なのかとゆうと、俺は肺癌を患っていて、医師に余命一年と宣告されているからだ。
ただ、半年後には入院し、手術すれば治るかもしれないと医者には言われている。
本当なら今すぐにでも入院したほうが良いのだが、俺の要望もあって、ぎりぎりまで入院はしないことになっている。
俺が言うと、陽太はため息をついてから口を開く。
「ったく、先生にばれたら退学もんだぜ?」
「ははは………そうだな」
実際のところばれたら本当に退学させられかねない。
うちの高校は厳しく、何か学校側に問題が出ると、それが解決するまで生徒を家に帰さないときたものだ。
最近では学校の考え方が、うざったく感じる。
「うわっ……」
そんなことを考えていたら、俺の後頭部に雪玉が直撃
したらしい。
俺の頭から白い雪が地面に落ちていき、落とした煙草に重なっていく。
(………はぁ……石が混入されていないところ
を見ると、陽太がやったわけではなさそうだ)
この雪玉を、仮に陽太が投げていたとしたら、俺は確実にベンチから落ちているだろう。
あいつが雪玉を投げる時には、必ず石が混入されていて、これでもか! とゆうほど力をこめて投げるはずだ。
(だったら、誰が……?)
そんなことをかんがえていると、後ろからクスクスと控えめな笑い声がした。
「あの笑い声……瀬奈か?」
俺が頭を上げながら言うと、陽太が「だな」と一言だけ言って、
後ろを向いて叫んだ。
「おーい沢野こっち来いよ」
陽太が呼んだ人物は笑顔で近づいてきた。
彼女の名前は「沢野 瀬奈」俺と陽太の高一の時からの友人だ。
「大丈夫ですか? 島根君」
瀬奈が笑顔で聞いてくる。
「大丈夫ですか? ……じゃねぇよ! 頭と首は冷たいし、煙草は落とすし」
「よかったじゃないですか、煙草は体に毒ですよ」
「二人で同じような事言いやがって……」
陽太と同じような事を瀬奈が言うので、そう呟いてから俺は煙草を一本取り、ライターで火をつけようとするが火が出てこない。
「はぁ、燃料ぎれか……なぁ陽太、ライター持ってねぇ?」
「持ってない、俺は煙草を吸わないからな」
きっぱりと言われた俺は、ライターをゴミ箱に捨て、煙草を箱に戻し立ち上がった。
「なんだ、帰るのか?」
「ああ、飯の材料買って作り始めないと、砂夜に怒られる」
空を見てみると、すでに日が沈み始めていた。
ついでに砂夜とゆうのは俺の妹だ。
うちの家には両親がいない、二人とも旅行に出かけたときに
交通事故で…………。
二泊三日の温泉旅行に夫婦で行ってくるから、三日だけ家の事をよろしく……と嬉しそうに出かけたのを見送ったのが最後だった。
飲酒運転をしていたトラックが、帰りのバスに突っ込んだらしい。
俺はそれをニュースで知った。そして、それとほぼ同時に警察からの電話が
きた。それを聞いたとき、俺はどうしたら良いかわからなかった。
当たり前だ、中学二年生の男と、小学六年生の女の子の二人を残して両親は逝ってしまったのだ。
次に両親に会ったのは、病院の霊安室の中だった。
親戚から家に来ないかと誘われたこともあったが、俺達はそれをすべて断った。他人に迷惑をかけたくなかったから、そして何より両親と一緒に暮らしていた家を出て行きたくはなかったから。
高校側にも何とか頼み込んで、バイトを許可してもらったから、なんとかやっていけている。
ただ1つの問題は、砂夜の料理は人が食べるものにならないとゆう問題である。
そのせいで、朝食(朝食と同時に弁当二人分も作っている)・昼食(休日のみ)・晩飯すべて俺が担当している。そのせいで、いつの間にか友人の間では料理の神とまで呼ばれるようになってしまった。
俺の帰る理由を聞いた陽太は「あはは」と笑いながら立ち上がる。
「よし、じゃ行くか」
陽太が立ち上がって歩き出す。
「ほら、瀬奈も行こうぜ?」
「あ、うん」
瀬奈の手をとって陽太の後を追う。
「陽太はこれからどうすんだ?」
「俺は……晩飯までゲームでもしてるよ」
俺の質問を笑って返してくる陽太。
そんな陽太に一言。
「勉強しろよ」
俺が言うと陽太は叫んだ。
「冬休みまじかに勉強なんかするものか!」
「お前なぁ、確かに明後日は終業式だが、天津恒例の学期末最終日テストがあること……忘れてないよな?」
俺が聞くと陽太が固まった。
「……………………」
「まさか……忘れてたのか? 赤点とったら、冬休みに補習やるって言ってたぞ」
俺が言うと、陽太は満面の笑みで言った。
「何言ってんだよ。学期末最終日テストなんて余裕だぜ、かかって来いっての。冬休みが俺を呼んでいる。ふははは」
とか言うものの、陽太の額からは汗が出ていて顔も引きつっている。
それは何故か、もちろん強がりだからである。
「陽太……」
「師名君……」
強がりだとわかっているため、俺と瀬奈はつい落胆の声を出してしまう。
「見るなぁ、そんな哀れむような目で俺を見るなぁ!!」
涙ながらに言う陽太の肩をポンと叩いて俺は言った。
「安心しろ、お前以外誰もいないと思うから」
この時期は家族と過ごしたり、恋人とすごしたりする人が多いから、
皆死に物狂いでテスト勉強をしてくるのだ。
なので、夏休みに補習を受ける人は何人かいるが冬休みに補習を受ける
人はほとんどいない。
「余計にわびしいって!」
俺が言った言葉にかなりの反応をみせる。
「まあまあ師名君。島根君も意地悪ですよ」
俺と陽太の会話に瀬奈が入ってきた。
「あはは、そうだな」
俺が笑うと陽太は悔しそうに一言言った。
「くっ……人事だと思いやがって」
「いや、人事だし」
「このっ……薄情者!」
それだけ言って陽太は走っていってしまった。
「あ、師名君……」
瀬奈が陽太を引き止めようとしたが、
それより速く陽太はいなくなってしまった。
「ほっとけばいいさ。それより、瀬奈はこの後どうするんだ?」
「え? あっ、えーと……今日家に帰ってもお母さんいないんですよね……」
「へぇ、そうなのか」
そんなくだらない話をしていると、すぐに別れ道に出てしまう。
「あ、俺こっちだから」
俺が商店街の方向を指して言うと、瀬奈が我に返ったように返事をする。
「あ……はい………」
「それじゃ」
「あ………」
俺が瀬奈に背を向けて歩き出すと、瀬奈が声をかけてきた。
「し、島根君!」
「ん? どうした?」
俺が聞くと、瀬奈は少し戸惑ったように笑う。
「あ……あはは……どうしたんでしょうね?」
「いや、俺に聞かれても」
「そう……ですよね……ごめんなさい」
いつもの瀬奈らしくない反応。一体どうしたとゆうのだろうか。
「どうしたんだ? なんか変だぞ」
「いえ……そ、そうだ! 島根君」
何か閃いたように、瀬奈が声を荒げる。
「な、なんだ?」
一体何を閃いたとゆうのだろうか?
「私も一緒に商店街に行っていいですか?」
その言葉を聴いたとたんに俺は脱力した。
「どうしましたか?」
瀬奈が不思議そうに聞いてくる。
「いや、まさかそんなことを聞いてくるとは思わなかったから……つい」
「ダメ……ですか?」
少し不安そうに瀬奈が聞いてきた。
「全然かまわねぇよ」
「そ、それじゃあ行きましょうか」
「そうだな」
俺が歩き出すと瀬奈が俺の横に並ぶ。
「そういえば、瀬奈のお母さんってどんな仕事してんだ?」
瀬奈のお母さんはほとんど家にいないらしく、瀬奈は一人暮らし同然の生活をしているとゆうのを聞いた事がある。
しかし、瀬奈のお母さんがどんな仕事をしているのかは、いまだに聞いたことがなかったのだ。
俺が聞くと瀬奈は少し言いにくそうだった。
「………何をしているのかわからないくらい、いろいろやってますね」
「もしかして、職を複数もってるってことか?」
俺が聞くと瀬奈は首を横に振った。
「いえ、そうじゃなくてですね。お母さんはもともと、上司さんから複数の依頼が来る位置にいて、その依頼のレパートリーがすごい沢山あるんですよ」
「ようするに、和食の専門店じゃなくて、洋・中・和食すべての料理を扱っている店って事か?」
「ん〜、料理に例えるとそんな感じかな」
瀬奈が少し考えてから答える。
「でも、帰って来られないって事はあれか? 仕事場で寝泊りしてるのか?」
「いえ、たぶんホテルかどこかを会社側が用意して
くれているんだと思います」
「ホテルって、そんなところ用意してもらうんだったら、帰ってくれば
良いじゃないか」
俺がため息をつきながら言うと、瀬奈が苦笑して言った。
「海外ですから、そうゆう訳にも行きませんよ」
俺は今の瀬奈が言ったことに対して我が耳を疑った。
「……………海………外? …………ま、まじっすか?」
「ええ、まじっす」
笑顔で言う瀬奈。友人の親の中に海外に行っている親がいた
なんて……しかもすぐ傍の……世の中何があるか
わからないな本当に。
「ってことは、あまり会ってないのか?」
俺が聞くと、瀬奈は少し表情を曇らせながら言う。
「はい、運がよければ月に三回ぐらいは会えるんですけど、ここ最近は忙しいみたいで、今月は帰って来られないみたいですから」
「大変だな………」
俺が言うと、瀬奈はすぐに笑顔になって返してくる。
「そんなことないですよ、一週間に二回は電話をくれますし、帰ってきたときは私に付き合ってくれますから……島根君?」
俺には瀬奈の声が聞こえてなかった。両親の話になるといつもこうだ。
「親と会えないのって……辛い……よな……」
「島根君?」
瀬奈が心配そうに俺のほうを見ていた。
「あ、瀬奈……わるい」
「自分から話をふっといて……嫌な奴だな……俺」
俺が呟くと、瀬奈が口を開く。
「私は全然かまいませんよ。それより、大丈夫ですか?」
瀬奈が聞いてくるので、俺は笑顔でかえした。
「気にすんなよ、別に瀬奈が悪いわけじゃないから」
「あ……はい」
瀬奈が返事をした後に、時計を見てあることに気付いた。
「やべぇ! タイムサービスが終わっちまう……瀬奈」
「はい?」
俺がいきなり瀬奈に声をかけたためか、瀬奈がすっとんきょうな声をだす。しかし、今の俺にはそんなことを気にしている余裕は無い断じて無い。なので、瀬奈に一言。
「……走るぞ」
「え?」
俺はそれだけ言って全速力で商店街に向かう。
「ぬおおおおおおお!」
「ちょっ、ちょっと島根君?」
ついでに、瀬奈の手は握っていないので、瀬奈は遅れて走り出した。
(瀬奈は運動神経結構良いし……大丈夫さ……たぶん)
「はぁ、はぁ、はぁ……間に合った……あれ? ……瀬奈?」
俺は全速力で商店街に向かった結果、タイムサービスには間に合った。
しかし、瀬奈の姿が見当たらない・・・。
「はぐれた……か? ……後で謝っとくかな……
って! 速くしねぇとタイムサービス終わっちまう」
瀬奈の事を気にかけながらも、俺は戦場に向かった。
    *  *  *
  「はぁ、はぁ、はぁ、島根君……どこに行ったんだろう……」
私は島根君とはぐれて、商店街のはずれの方にまで来てしまった。
「はぁ……せっかく二人になれたのになぁ………
どうしてこうなっちゃうんだろう」
(でも、こんなところで考えていても仕方が無いし……)
私はとりあえず商店街を詮索することにした。
    *  *  *
「さてと……南無三!」
俺はそれだけ言って、おばさんが集まっているタイムサービスの地に
足を踏み入れた。
混雑は予想以上に激しく、体が潰されても誰も文句など言えないであろう。
「くそっ、負けてたまるか!」
そう叫んで手を伸ばした結果、なんとか一パックを手中に収めた。
俺が手に入れたのは牛肉だ、今日はこれを使って肉じゃがを作ろうと思う。
「う〜ん、何か足りない物あったかな?」
冷蔵庫の中を思い出してみる。
(人参……いや、足りるな………じゃがいも・・・なかったら作ろうなんて思わねぇよ)
「うん、他にはないな。……ってライターがねぇや……よし、ライターも買って、後は適当に足りない物買って……瀬奈を探さないと……はぁ」
一つため息をついてから俺は牛肉とライターを買い、商店街をぶらつき始めた。
    *  *  *
「ここにもいないし。何処にいるんだろう……島根君」
私はあれからずっと商店街で島根君を探していた。
しかし、いまだに彼を見つけられないでいたのだ。
(本当に何処行ったんだろう……)
そんな事を考えていたら、急に背筋がぞわっとした。
私はこの感じを知っている。
私の体から血の気が引いていくのが分かる。
お父さんが事故に遭った時に感じたものと同じだった。
あの時はすごくひどい事故だった……私がお父さんの姿を確認
したときには……もう。
「うそ、うそでしょ……」
私は否定するように首を振った。
(そんなことない……島根君に限って……)
否定をすればするほど不安が大きくなっていく。
私はいても立ってもいられなくなり、彼を探すために走り出した。
大切な人を二人も亡くしたくは無かったから。
     *  *  *
「つい沢山買ってしまった。やっぱ安売りは主夫の敵だな……って俺は主夫じゃねえ!」
などと、ノリツッコミをしながら歩いていると瀬奈の姿を発見した。
なんだか様子が変だが・・・。
「おーい瀬奈ぁ……うおっ!?」
俺が声をかけると、泣きそうな顔をした瀬奈が抱きついてきた。
「島根君っ!!」
「ど、どうした?」
俺が聞いても、瀬奈は答えずに次々に質問してくる。
「どこか怪我してない?」
「え? あ、ああ大丈夫だけど……どうしたんだ?」
「ううん、なんでもないの……島根君が大丈夫ならそれでいいの」
なんか、言葉使いがめっちゃ、くだけているんですが……。
「と、とにかく……瀬奈……離れてくれ」
「え?」
なんだかこの状況を理解してないようだ。
「気付いてないのか? 自分の状況をよく確認したまえ」
偉そうに言うがぶっちゃけた話、かなり動揺している。
「…………………っ!」
瀬奈の顔が真っ赤になった。
「ご、ごめんなさい!」
謝ると同時にぱっと体を離す瀬奈。
「いや、謝んなくても別にいいけどさ……」
そうゆう態度をとられると、なんだかこっちまで照れてしまう。
「と、とにかく……どうしたんだ?」
俺が聞くと、瀬奈は言い難そうにしている。
「ほ、ほら、虫の知らせってあるじゃないですか?」
「え? あ、ああ」
「それを感じたんです、こうピーンと」
「あ……そう」
なんだか言ってることが無茶苦茶だが……何も言うまい。
無理に聞き出そうなんて思っちゃいないし。
「なぁ、瀬奈?」
「なんですか?」
俺が聞くと短い返事が返ってきた。俺はそのまま話を続ける。
「いや、今日は瀬奈のお母さんいないんだろ?」
「ええ、いませんよ」
俺が聞くと瀬奈は頷く。
「だったら、家でごちそうしてやるよ」
俺が言うと、瀬奈は苦笑しながら首を横に振った。
「そんな、悪いですよ」
「遠慮すんなよ、この前だって来たんだし」
俺達と瀬奈は一緒に飯を食べることが多い。
なぜなら、俺が誘うからだ。一人で夕食を食べるなんてわびしいし、なにより砂夜と二人で食べるとゆうシュチュエーションに俺が飽きてきたのだ。
「でも……」
瀬奈は遠慮しすぎるところがある。しかたない、こうなったら。
遠慮しまくる瀬奈に対し俺は最終手段に出た。
「そうか、瀬奈は俺達と食べるのが嫌なのか……。そうか、なら
仕方ないよな……せっかく材料を多めに買っといたのになぁ」
遠い目をして俺がぼそぼそと言う、すると。
「島根君……卑怯ですよ」
少しふてくされたように言う瀬奈。
「たはは、ばれたか」
瀬奈はおひとよしなところがあるから、俺がこんな感じで暗くなると、
すぐに俺の意見を了承してしまうのだ。
「まぁ、無理にとは言わないけどな。これは俺のわがままなわけだし」
「しょうがないですねぇ。そのわがままに付き合わせていただきますよ」
なんと、思いもしない一言が返ってきた。
「いいのか?」
つい問い返してしまう。
「嫌ですか?」
「んなわけないけど」
「それなら速く行きましょうよ」
「あ、ああうん」
瀬奈に促されるままに歩き出す。
「今日の晩御飯はカレーですか? 量が少ないみたいですけど」
袋の中身を見ていた瀬奈が聞いてくる。
「いや、今日は肉じゃがだ、本当は人参もじゃがいもも
家にあるんだけど、瀬奈の分もとなるとさすがに足らないからな」
「私が一緒に食事をする事は決定事項だったんですか……」
「当然」
俺が言うと、瀬奈がこちらをじっと見てくる。
「ねぇ、島根君」
「?」
「なんで、食事に誘ってくれるんですか?」
また答えにくい事を聞いてくれる。
「そりゃあ、一人で食事なんて悲しいじゃないか。それに、自分が作ったものを食べて「おいしい」って言ってくれる人がいる……そうゆうのってさ、やっぱ嬉しいじゃん。自分が作ったものを自分一人で食べる、それってさすごく悲しいことだと思うんだよな」
「でも、島根君の家には砂夜ちゃんだっていますよ?」
「あいつは……なんか違うんだよな」
「違う?」
俺の言葉に瀬奈は再び問いかけてくる、俺はその問いかけに
頷きながら答える。
「瀬奈が「おいしい」って言ってくれた時と、あいつが「おいしい」って言った時とじゃ、全然違うんだ……なんつうか、瀬奈の時のほうがうれしいんだ」
    *  *  *
「瀬奈の時のほうがうれしいんだ」彼の言葉が自分の頭の中で行き来する。
うれしくて危うく島根君に抱きつくところだった。
(いけない、私は島根君の友達なのだから……。
島根君の方も意識して言ったわけではなさそうだし。
島根君は私を友達として見ているはずだから……)
私がそんなことを考えていると、島根君が煙草を吸おうとした。
そこで私はすかさず煙草を取り上げた。
「やめましょうよ、二人でいる時ぐらい。
まぁ、私は島根君の彼女じゃないからこんな事言っても
仕方ないんですけどね」
「瀬奈……ごめん」
島根君に謝られると、なんだかこっちまでいたたまれなくなってしまう。
「謝らないでください」
それだけ言って私は島根君に煙草を返した。
   *  *  *
瀬奈に煙草を返された俺はライターをポケットに入れ、煙草を箱に戻した
こういった重苦しい雰囲気は苦手だった。
あれから俺達はあまり口を聞かずに歩いていった。
「ただいま」
俺が家の中に入ってそう言うと砂夜が出てきた。
「お帰りなさい、兄さん」
「おう、客分一名連れてきたぜ」
俺が言うと、砂夜はきょとんとした声をあげた。
「客分って?」
「お邪魔しますね、砂夜ちゃん」
砂夜が声をあげた後に、俺の後ろから瀬奈が顔を出して言った。
「沢野……先輩?」
「そうゆうことだ」
俺が言うと、砂夜の顔が険しくなっていった。そして……。
「兄さん、ちょっとこちらに来ていただけませんか?」
「……はい」
砂夜の気力に押し負け、俺は砂夜に連行されていった。
「沢野先輩、ちょっと待っていて下さいね」
「う、うん……」
瀬奈も気力負けしている……当然か。
リビングに入ると、砂夜の足が止まった。そして、顔をこちらに向けてくる。
「兄さん、何で沢野先輩を連れてくるの?」
冷たい声が部屋に響く。
「なんでって、特に理由はねぇけどな」
俺が言うと、砂夜がため息をついてから話し出す。
「まったく、沢野先輩が好きなのはわかるけど……」
「待てぇ――――い!」
「な、何?」
俺が声をあげると、砂夜が驚いたような声を出す。
いや、実際驚いているんだろうけど……。それより……。
「俺がいつ、何月何日何時何分何十秒、地球が何回回った時にそんな事を言った!?」
俺が無茶苦茶な事を言うと、砂夜に呆れた顔をされた。
「誰も答えられませんって」
「いや、普通に返さないでくれ……」
俺的には無視してくるかな? と思っていたのだが……。
うまくはいかないもんだなぁ。
などと考えていると、砂夜がため息をついた。
「はぁ、沢野先輩ずるいなぁ」
「何言ってんの? お前」
俺が言うと、砂夜はハッとして言い返してきた。
「なんでもないです! 強いて言えば私だって兄さんと二人きりで
食べたい時だってあるんです」
「お前なぁ、ブラコンじゃないんだから」
俺が言うと、砂夜は顔を赤くしながら反論してきた。
「そんなの関係なっ……」
「やかましい。今日は肉じゃがだ、食べたければこれをキッチンに持って
いけ。これ以上お前の相手なんかしてられるか」
「ちょ、ちょっとそれどうゆう意味ですか?」
「言葉道理だ。それじゃ、俺は瀬奈の所行ってくるから」
「兄さん!」
「うるせー、うるせー」
砂夜から逃げるように、俺は出て行った。
俺が玄関に向かうと、瀬奈がクスクスと笑っていた。
「どうした?」
「いえ、嫌われてるなって思っただけですよ」
「そんなことは無いと思うけど……。まぁ、とにかく上がれよ」

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