ノベルる

夕闇

新崎 拓作
それでもなお、君の事が知りたかった。


  夕闇


爛々と街灯が輝く夕闇の町。
何処からか、「ゆうやけこやけ」の曲が流され、それと同時に女性の声で、「良い子はおうちに帰りましょう」などといっている。
その声をぼんやりと聞きながら、僕は深い、自分で聞いていても情けない溜息を吐いた。
この帰り道を一人で通ったのは何時が最後なんだろう、とぼんやりと麻痺したように働かない脳で考える。
思い出せないほど昔だったか、それとも思い出したくないのか。
また、彼女のことを思い出しそうになって僕は溜息でごまかす。
それでも消えない彼女と彼の名残に、僕は本当に溜息を吐いた。

「亜紀(アキ)」と「宗次(ソウジ)」。

この二人は僕の幼なじみで、兄弟みたいなもので。
同じ小学校に行き、同じ中学校に行き、同じ高校に行き、家も近かったために登校も下校も一緒に行っていた。
だが、そんな日常はもろくも崩れる。
宗次が亜紀に告白したのだ。
そんな感情いつの間に持っていたのだ、とは言わない。
それにあの二人は僕に一緒に登下校できないとも言わなかった。
だが、それは僕にとって、拷問に等しい。

僕も、亜紀が好きだった。

何時からそんな感情を持ち始めたのかわからないほど前から、好きだった。
なんというか、書店の何処でも買い求められる人気の恋愛小説みたいな展開。
そんな風に薄らぼんやりとした認識の下、宗次が亜紀に告白したと聞いた僕はほとんど無意識的に携帯を取り出し、宗次に向かってもう登下校を共にできないとメッセージを打っていた。
今になって思えば、登下校を一緒にして邪魔することもできただろうに。
だけど、僕は宗次も友達として好きだったし、亜紀が幸せになるのなら、それでもいいと思えるくらいの機転、というのか何かが利いた。
それとも、僕にただ単に勇気がなかっただけなのか。
僕は無意識のうちに夕闇の空を仰いだ。

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