FINAL FANTASY 8 |
aki作 |
自由な校風が特長であるバラムガーデン。私語はもちろん服装も自由である。ただガーデンは特殊な学校のため私語を禁止、制服の常時着用など厳しい規律のガーデンもある。ガーデンは全部で3校あり、それぞれ特徴が違う。バラムガーデンは、巻貝を思わせるような形で、非常になめらかな曲線を描く。材質は金属で銀色に輝き、そこには所々に美しい彫刻がほどこされ頂上には巨大なリングが浮かぶ。この美しい外観はガーデンで教える、ある意味特殊な内容をカモフラージュしているといえるかもしれない。特殊な内容、つまりガーデンはプロの傭兵である「SeeD」を育成する、専門性の高い学校であることだ。各種武器の扱いから、高等魔法の習得、実践向けの訓練を行い、筆記試験、実地試験を経てSeeDとなれる。しかしその「SeeD」は二十歳までに試験を合格しなければ放校処分される厳しい現実が待ち構えている。 現在筆記試験が終了し無事クリアしているものは、実地試験に駒を進められる。その中にSeeD候補生のスコールがいた。 スコールのこれまでの経歴は、筆記試験を首席でクリアし、ガーデンから東に位置する「炎の洞窟」で、GF(ガーディアンフォース)と呼ばれる自律エネルギー体のイフリートと対峙、同行した教官のキスティスの力も借り撃破、試験を時間制限内でクリアしている。ドールではガルバディア軍に占拠された市街地の奪回だったがこれもクリアする。そして次なる任務に「ティンバーにてある女性と接触してほしい」という任務を受けていた。 「ティンバー」は、このガーデンのある大陸から離れ、西に位置する広大な大陸にある。大陸の横断には海底を行き来する「大陸横断鉄道」を利用するのだが、バラムから発車しているのでひとまずそこへ向かうのが目的だった。 この任務には引き続き教官のキスティスが同行、ドール市街地奪回の時のメンバー、ゼルとセルフィも引き続きメンバーの一員となり4名の班構成となった。班長には先頭を歩く長身の青年、スコールが抜擢された。額の真ん中には斜めに傷が走り、ルックスは誰もが認める美男子。髪は茶、耳にピアス、首にシルバーのネックレス、左手に大型のギターケースを抱える。新しく加わった候補生のゼルは、前髪を逆立て顔半分に黒の模様をペイントし、下は短パンだ。武器は携帯しないが、代わりに拳や蹴りを武器とする。投げ、関節技も使えオールマイティな戦いが可能である。最後に唯一女性の候補生、セルフィは、ボリュームある髪で大きく外にカールし服装はワンピース。やや短めなワンピースは元気な太ももを覗かせる。武器はヌンチャクで、間には鎖が通り自由に長さを調節できる。 ガーデンを出発したスコールたちは、バラムに到着、切符を買い待機していた列車に乗車した。SeeDだけが使用できる専用のタービンに移ると、正面にL字型のゆったりとしたソファー、右手に二段ベッド、天井にはシャンデリアが輝いていた。 セルフィはソファーを見つけると駆け寄ってソファーの座り心地を確かめるように、お尻で弾ませて遊んでいた。一息できる空間を見つけたスコールは深呼吸した。これまでの任務の連続で戦闘や緊張を強いられ休む時間はなかった。スコールは壁に寄りかかるようにして腕組みをして伏せ、ゼルはソファーの後ろに回り込み列車の窓のブラインドに指を入れ外の景色を見ていた。教官のキスティスはその3人の姿を見渡すように、出入り口に立った。 「さあ、ティンバーまでは時間はあるから仮眠でもとるといいわ」 キスティスの澄んだ美声が車内に響いた。 「本当に……何だか急に眠くなったかも」 大きなあくびをしてセルフィは近くにあるベッドには移動しないで、ソファーに上半身だけ横に倒し目を閉じた。 「も、もう寝たのか!?」 寝息を立てるセルフィをゼルは覗き込むように言った。笑っていたゼルだったが「な、何だ? お、俺も……」 崩れて床に倒れてしまった。その異常な様子に気づいたキスティスとスコール。 「何なの、この感じ……」 キスティスも同じくして急に足から崩れてしまった。キスティスはスコールに一瞥して「気を、つけて……催眠ガス……」 スコールも急に襲いかかった眠気にはさからえず地面に倒れた。激しく頭をぶつけたが、痛みより眠気が強くスコールは気を失った。 スコールは頭を強く打ったのか視界がはっきりするまで時間がかかった。ぼんやりとした頭で、上体を起こした。辺りには緑が生い茂りさっきまでの列車と比べると全く様相が違っていた。ここはどう見てもジャングルだった。木々の葉から空を見るともう夜は更けており雲ひとつない夜空に満月が輝いている。 ジャングルに目を戻すと、横転した車が炎上している。唯一救いなのがその燃え盛る炎が真っ暗なジャングルを明るく照らしていることだった。なぜこのような場所にいるのかは検討がつかなかった。 頭がすっきりし始めると服装の異変にスコールは気づいた。上半身は鎧に覆われていた。装甲はぶ厚く、ひじの関節以外きっちり守られている。また鎧には紋章が刻まれどこかの軍だということが分かった。そして何より驚いたのが、自分の手が細く白くなっていたこと。自分の手ではないことはすぐに分かる。夢を見ているのか、とスコールはきつくほおをつねったが痛みが走る。夢ではないようだが、かといって現実ともいえない妙な感覚だった。とりあえずスコールは大きく深呼吸し辺りを見回して状況判断に努めた。すぐ近くに知らない男2人が倒れている。褐色の肌をした細身の男と大男である。どちらも同じ鎧を着ており軍人のようだ。 この2人を起こして何が起こったかを確認しようと思ったスコールは、寝ている1人に蹴りをいれた。目を覚ました褐色の肌の男は立ち上がると思っていたより背は高かった。 燃えさかる車に目を向ける長身の男にスコールは 「事故があったみたいだな」 と言った。 「まるで『別の誰か』が運転したいたみたいな言い方だな」 「それはどういう意味だ?」 男は不思議そうな目でスコールを見たが 「私はやめろと言ったのだが、あなたが近道と言って無理にジャングルをつっきって行ったのでしょうが」 「それではあの事故は俺が……。というのも頭を打ったのか少し記憶があいまいだ」 スコールは頭をおさえ、演技した。 「記憶を失ったのか? 大丈夫か」 「ああ。ところでこの鎧は何だ? どこの軍だ?」 「私たちはガルバディアの兵士で、遺跡の調査を終えた私たちはガルバディアへ帰るところだった」 スコールはしばらく考えこんだ。どうやら、スコールの世界とは全く違う世界で、誰かの生活を―夢か夢じゃないのか、分からないが―見せられているようだった。 頭をおさえたもうひとりの男が上半身を起こした。 「やっと起きたか?」 長身の男は大男に向かって言った。大男は立ち上がると、長身の男が小さく見えた。大男は210、いや220pはあるだろう。 「今、話していたんだが、ラグナ君は記憶を失っているようなんだ」 「本当か?」 2人はスコール―外見はラグナ―を見た。ここでスコールは、意識だけが「ラグナ」と呼ばれる人物に移ったことを確証した。 大男は 「記憶喪失ってやつか? それはやっかいだな」 「ひとまずガルバディアまで戻ってから考えようと思うのだが」 「そうだな、キロスに任せる」 長身の男はキロスというらしい。キロスはスコールに近づき 「ひとまずガルバディアに戻る」 「話は聞いていた」 「あまり無理はするなよ、ここはモンスターもいる。戦闘ならウォード君と私で十分だ」 どうやら大男はウォードというみたいだ。キロスの武器が気になったスコールは上から下へ見て、腰のところで目を留めた。ナイフより少し大きく、磨き上げられた両刃のナイフだ。大男は背より高い銛を手にしている。 「ラグナ君には、これだ」 と言って、2人は歩き出した。渡されたのは、マシンガンに手榴弾だ。 炎上した車から徐々に離れていくと、辺りは急に暗くなり月明かりだけが頼りになった。だが深い森に入っていくと、何層にも重なる木々の葉で空を覆い始め下には明かりが届かなかった。広大なジャングルという得たいのしれない大きな闇が、彼らを包み込んでいるようだ。 長いジャングルがようやく途切れるとコンクリートで舗装された道路が横に広がり、数メートルおきの街灯が辺りを照らしていた。夜空には星が広がり満月が大きく見えた。 「あの凱旋門が見えるか?」 キロスは道路に立って、左に向きを変えて暗闇に浮かぶ凱旋門を指差した。 「ああ、見える」 「あそこがガルバディアだ」 「そうか」 「あの凱旋門を中心に環状の道路が敷かれ、無料の乗り合いバスが運行している。……分かるか?」 「ああ」 キロスは歩き出し「後少しだ」 道路の中央を歩く2人にスコールは続いた。やがて凱旋門までたどり着き、大統領官邸前、首都のデリングシティと順に移動したどり着いた。 「頭の方は大丈夫か?」 「ああ」 「いつもならラグナ君が率先して入っていくのだが」 と言ったキロスは、スコールを見てひときわ大きい建物を見た。「今日はもうやめとくか?」 「なんだ? 俺は大丈夫だが」 「では軽く一杯やってくか」 ガルバディアホテルと横文字で書かれている建物へ2人は入っていった。ホテルへ移ると中は天井まで高くシャンデリアが神々しく輝いた。玄関からフロントまで直線状に赤い絨毯が伸び、フロアには磨かれた大理石が敷き詰められている。 2人は下へと続く階段へと降りていった。 途中まで来ると美しい音色と歌声が心地よく響いてきた。降りると大きなグランドピアノがすぐ目に入った。真っ赤なドレスに身を包んだ女性が歌と演奏に興じている。それはゆったりとした演奏で、バー全体が癒しの空間になっている。 2人はカウンターへは行かずテーブルのある席へついた。やがて店員がやってくると 「俺はいつもの」 「私もいつものやつで」 「かしこまりました」 「ラグナは?」 ウォードの太い声だった。「何か注文しようぜ」 「……水」 「酒が弱くても水はないだろ?」 「俺は未成年だ」 「未成年……?」 うっかりスコールは地がでてしまった。ラグナということを今は一瞬でも忘れてはいけない。2人の視線がスコールに注がれる。「いや……こちらの話だ」 「とりあえず……ウーロン茶を」 店員が去った後、入れ違いに女性が歩いてきた。真っ赤なドレスから覗く白い肌、子顔、大きな瞳。ピアノを演奏していた女性である。 「隣空いてる?」 「おい、ジュリアが話しかけてるんだぜ。何か言ったらどうだ?」 ウォードはスコールをはやしたてた。女性はジュリアというらしい。スコールの隣に座ったジュリアは大きな声で店員を呼ぶと注文をはじめ 「喉が渇いて、ずっと歌ってたから」 と、スコールに言った。それからジュリアは何度となく話題を持ちかけてきたが、その早いしゃべり口にスコールはついていけず、代わりにキロスやウォードが話を拾ってくれたために場は盛り上がっていた。 「今日のラグナ、本当に静かね」 ジュリアは笑いながら言った。「いつもならうるさいぐらいなのに」 「ラグナ君は頭を打ったみたいで、一時的な記憶喪失ですよ」 キロスが代わりに答えた。 「それで大丈夫なの? 記憶は戻るの?」 「私にもよく分からないが後で精密検査を受けさせようと」 「それがいいわね」 やがて酒は空になりウォードは椅子の背に大きくそりかえって大の字になった。 「トイレに行く」 とキロスは席を立ち、ウォードはいびきを立て始めた。ジュリアはスコールの耳元に手を当て顔をグッと近づけると 「ラグナ、私の部屋へ来てくれる? 少しの時間ならいいでしょ」 答える間もなく、ジュリアの白い手がスコールの手首をつかんだ。手首から手へと移り、しっかりとお互いの手が重なった。ジュリアの突然の行動にスコールはとまどいを感じるが、ジュリアの引き寄せる力に逆らうことができなかった。 静まりかえる部屋、スコールはジュリアの部屋にいた。ドアの閉まる音を背に聞くと、暗闇に2人の息づかいだけが聞こえた。 ジュリアの白い手が暗闇に届くと、部屋全体に明かりが行き届いた。大きなベッドが2つ、1人で住むには十分な広さに思えた。 「適当なところに座って」 落ち着かないスコールに対してジュリアは平然としているようだった。近くのベッドに座るとジュリアはグラスを2つ持って現れ 「はい、グラス。お酒じゃないから安心して」 スコールのグラスにジュースが注がれると 「かんぱーい」 差し出されたジュリアのグラスとぶつかって大きく音をたてた。ジュリアはよほど喉が渇いているのか一気にアルコールを飲んでしまった。スコールはその飲みっぷりに感心した。 「どうしたの? 顔色がよくないわ」 スコールは、バーから出たあたりから部屋へ来るまで、頭痛と耳鳴りに悩まされていた。 「いや、大丈夫だ」 そう言ったスコールだったが、心臓の鼓動は大きく乱れていた。ジュースを一気に飲み込み、しばらくすると落ち着きを取り戻し耳鳴りも収まった。ジュリアの心配そうな表情を見て 「俺は大丈夫だ」 「無理はしないでね、ちょっと待ってて」 ジュリアは袋につめた氷をスコールの額に当てた。「どう? 気持ちいいでしょ」 「ああ」 ジュリアは頭の後ろを支えるので顔がすぐ近くにあった。甘いシャンプーの香りが鼻孔をくすぐる。 「もう大丈夫だ」 スコールは袋を奪うと、自らの手で額を冷やした。 それからしばらくお互い違うベッドに座り、話すこともなく黙っていた。やがて 「……きれいな景色でしょ」 ジュリアは外の景色を見て言った。視線を上げスコールも同じ景色を見た。遠くから見るので下の世界はここからでは分からなかったが、大きな満月と小さな星は輝いていた。 「この町好きだけど……時機に離れようかな……」 目を伏せ、初めて見せる寂しげな表情だった。 「なぜなんだ?」 「もっと大勢の人に聞いてほしいからかな。ここは好きだけど、でも世界は広いからもっと沢山の人に、私の歌を……」 最後ジュリアの声は聞き取れないぐらい小さくなった。さっきより一層悲しい目をしている。「ごめんなさい」 しばらく沈黙が続くとジュリアは立ち上がって、グラスを満たして帰ってきた。 「さ、次はそっちの番、話して」 「俺?」 「ふふ、他に誰かいるっていうの?」 しばらく話すのをためらっているスコールの姿を見たジュリアは、 「そういえば、スナイパーの病気は治った?」 「スナイパー?」 「前によく言ってたじゃない、ほらラグナの飼っている」 「何だ?」 「ほら、犬よ」 「ああ、犬か。元気にしているよ」 「元気に?」 「ああ、そうだ。何だ?」 「嘘……」 「嘘?」 「ラグナ、犬なんか飼っていないわ。それに記憶喪失、なんてのも嘘よ」 ジュリアはスコールから視線を外し、また戻すと「はじめはそう信じていたけど。でも話し方や仕草がまるで違うじゃない。記憶を失っても変わるものじゃないと私は思うの」 スコールはジュリアが何を言いたいのか何となく分かった気がして、黙って聞いた。いや言いかえせないという方が正しいかもしれない。 「嘘をついたのは私も悪いよ。でも本当のことを知りたいの」 ジュリアの目はしっかりとスコールの目を見ていた。真っすぐな瞳、それはまるで曇ることを知らない青い宝石を見ているようだった。 その真剣さに今起きている不思議な体験を話してもいいと思った。まだ出会って間もないジュリアだが、話しぶりや、仕草、ラグナに想いを寄せるひたむきさは、鈍感なスコールにでもジュリアの気持ちは分かっていた。 「ラグナ、話して」 ジュリアはまっすぐ見ている。これ以上ラグナを演じ続けるのは、ジュリアのラグナに対する想いに失礼だとスコールは思った。ジュリアの目をしっかり見た。 「俺の名はスコール・レオンハート。バラムガーデンに所属している、SeeD候補生だ」 ジュリアはスコールの目から離さず、しばらく黙っていた。ジュリアはこちらのベッドに移り横に寄り添ったが前に立った。前かがみになるジュリアはスコールの顔に近づける。突然のことにスコールは少し後ろに下がったが、勢いあまってあおむけになった。上にジュリアが被さる。 とその時、またしてもスコールは頭痛に襲われた。さっきよりも頭痛は激しく、耳鳴りは最高潮になった。頭を片手でおさえたが、いてもたってもいられない痛みでもう片方の手を頭に添えた。目を閉じ歯をくいしばり、ジュリアの叫び声だけが聞こえる。耳鳴りが勝るともうジュリアの声が聞こえなくなった。代わりに、聞きなれた別の声が聞こえてきた。幻聴のようにも思えたが、間違いなく誰かが呼んでいた。それはジュリアの声にも、別の誰かの声にも聞こえた……。 「……バー。ティンバーです。……忘れ物のないよう……」 途切れ途切れの音がスコールの耳に届いてきた。それがティンバーへ向かっている列車のアナウンス、ということにスコールは気づいた。 「起きて……スコール」 ぼんやりしていたが声のする方へスコールは上体を起こした。するとセルフィが目の前にいた。驚いた顔をしていたが、すぐに嬉しそうな顔つきに変わった。 「やっと起きたね」 「俺を呼んでいたのは……セルフィか?」 「うん、そうだよー」 「そうか……随分俺は長い夢を見ていたようだな」 「スコールも? 私も夢を見たよ。変な夢ですっきりしないけどね」 「俺も夢を見たぜ」 「ゼルも?」 「ウォードっていう男になる夢をよ!」 「え? それって私も見た! 私はキロス」 「なんだ? お前も見たのかよ」 「うん。……もしかしたらスコールも同じ夢だったりして?」 2人の視線がスコールに注がれる。 頷いたスコールに2人は驚いたが、スコールはラグナのことを思い出していた。どんな人間かまでは分からないが、少なくとも2人の軍人やジュリアはラグナを慕っていたように見えた。興味がないといえば嘘になるが、スコールはあの意識だけが移動するGFに常駐したような感覚はもう経験したくなかった。眠っていたが倦怠感がする。 「この件は任務とは別に報告する」 とスコールの言葉に2人は頷いた。 「そういえばとくに盗られたものはなかったよ」 「そうか。俺のガンブレードも」 「安心して、大丈夫よ」 列車の速度が落ち、アナウンスがすると 「さあ、もうすぐ着くわ、話はそれまでにしておいて。それから分かってるとは思うけど、ティンバーはガルバディアの占領下で今も、ガルバディア兵が町を占拠しているから、目立った行動は慎むこと、いいわね」 と、キスティスは言った。 列車がホームについてスコールは外の空気を大きく吸った。見上げると雲行きがあやしく、一雨きそうな天気である。降りる乗客はまばらでそれが今のティンバーの治安や情勢をものがたっているように見えた。ほかには、駅改札からも見える大きな建物がTV局と、設立から20年も経つティンバーマニアックスという出版社がある。 ひとまずスコールは「ある女性」に接触しなければならない。まずは地元の人の聞き込みからだ。 駅改札を過ぎようとした時、スコールの前に進路を妨害するように少年が現れた。少年は謝るでもなくその場に立ち止まった。青いターバンを頭に巻きつけ、Tシャツ、半ズボン姿だ。 「なんだ? 何か用か?」 とスコールは言った。 「す、すいません」 少年は視線をそらせては合わせ、その場を離れる様子がなかった。 「俺に何か用じゃないのか?」 「ティンバーへは観光か何か?」 突然の質問だった。 「……そうだが」 「どちらから?」 「答える義務はない」 と言ったスコールは先を急ごうとした。少年はきついスコールの一言にふさいでいる。 「待って」 とキスティスがすぐに言った。「私たちバラムから来たのよ。観光もそうだけど女性を訪ねて来たの」 「そッスか。先ほど連絡があってバラムから17、8歳の人が3人来るって聞いたッス」 「人数は違っているみたいだけど、バラムから来て年齢も同じね。ほかに聞きたいことは?」 「……この辺のフクロウがめっきり減りましてね」 また突然の質問だったが、 「あ、それ知ってる!」 キスティスが答えようとした瞬間、セルフィが横から話に割って入ってきた。「チョコボ! あ、違った。モーグリ……じゃなかったかな?」 「違うッス」 「セルフィ黙っててくれ」 スコールの一言にセルフィは小さくなった。この少年の1つ目の質問はとくに意味はなかったが2つ目は「ある女性」に会うための合言葉。つまりこの少年はレジスタンスにかかわっているのだろう。シド学園長からもらった資料にその回答が書いてあった。合言葉は「森のフクロウ」。 スコールは資料を見ないで答えた。「正解ッス。俺はワッツというッス。さっそく案内といきたいと思ったッスが……こちらの金髪の美しい女性は誰ッスか」 「あら、私のこと? 口がうまいわ、キスティスよ。……キスティス・トゥリープ」 「声もきれいッス。しかしメンバーは3人と聞いているッス」 「私はこの班の教官だから。学園長から話が通じているのじゃなくて?」 「そうでした!」 ワッツは背を向け「俺について来てくれッス、案内するッス」 そう言ったお調子者のワッツだが、ガルバディア兵を見ると鋭い殺気を発していた。ただそれが表面上にはでないだけでスコールは気づいていた。「ティンバーにてある女性と接触してほしい」という簡単な任務が今になって、詳しく内容を知らされていないスコールには不気味に思えた。やがて先を歩くワッツは、裏通りへ入っていった。雨粒が落ち、空一面に灰色の雲が覆っていた。スコールの内にもまた、これから起こるべく任務に、不安が雲のように大きくなっていた。 |